上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、首都圏繁華街を中心に「カラオケの鉄人」を運営する鉄人化計画です。
鉄人化計画は1999年に東京都目黒区で設立し、2000年に川崎市高津区に1号店をオープン。2004年に東証マザーズに上場後、まんが喫茶やコーヒーショップなどで多角化を図りましたが、後に大幅縮小・撤退しました。2015年には東証二部に市場変更(現スタンダード市場)。2019年と2021年に、まつ毛エクステ・ネイルサロンを運営する会社を買収して美容事業に進出しています。
事業の立て直し中にコロナ禍が直撃
それではまず、鉄人化計画の近年の業績の推移を見てみましょう。
コロナ禍の直撃で売上高は大きく減少し、営業損益および経常損益は3期連続で赤字となりました。2022年8月期には3233万円の最終黒字をかろうじて確保したものの、有価証券報告書には「事業運営は深刻な影響を受けており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しているものと認識」と記載されています。
とはいえ、鉄人化計画の業績はコロナ前から芳しいものではなく、売上高は減少傾向、2017年8月期には営業赤字になっており、2018年8月期から2期間は営業黒字を回復した矢先に再び赤字に陥った形となります。
さかのぼれば、2014年8月期には売上高100億円を誇っていましたが、営業利益率は数%と低く、手元資金が大幅に減って有利子負債が70億円近くにかさんだことから、社長交代とともに借入返済を進め、新規事業への注力を図っていました。
ところが、本業のカラオケ事業への投資を抑制したことが裏目となり、競合他社との差が開いてしまい、さらに人事制度変更後の混乱もあって従業員のモチベーションが大幅に落ち込むなど退職者が続出。負のスパイラルに入ってしまいます。
2017年8月期には、売上高の減少にもかかわらず売上原価は横ばい、販管費は逆に増加したことから創業以来初の営業赤字に転落。海外店舗や新規事業の撤退で13億円もの特別損失を出して、最終赤字となりました。
2023年8月期の業績予想は「現時点において、新型コロナウイルスの感染の状況が当社グループの事業活動に与える影響を合理的に算定することが困難なため」未定としています。
セグメント営業利益で美容事業がカラオケ上回る
鉄人化計画の報告セグメントは2022年8月期から「カラオケルーム運営事業」「飲食事業」「美容事業」「メディア・コンテンツ企画事業」の4つです。
カラオケルーム運営事業は、首都圏(東京・神奈川・千葉)において、「カラオケの鉄人」ブランドで直営のカラオケ店舗を43店舗展開。飲食事業は、「直久」ブランドでラーメン事業を中心に、直営店舗のほかフランチャイジー店舗および小売流通事業者等への販売を行っています。
美容事業は、首都圏において「Bianca」ブランド、中京地区において「Rich to」ブランドで、まつ毛エクステ・ネイルサロンを49店舗展開。メディア・コンテンツ企画事業は、携帯電話用モバイルコンテンツ(着信メロディ、着うた)の制作・販売・配信の運営を行っています。
その他、カラオケルーム運営事業を補完する事業として、アニメ・ゲームのコンテンツフォルダーのライセンスを使用したコラボ事業や、「TZ GAME Labs」の名称でe-スポーツ事業を行っています。
セグメント別の売上高は、カラオケルーム運営事業が37億8900万円で64.5%を占めるほか、飲食事業が7億900万円で12.1%、美容事業が12億1600万円で20.7%、メディア・コンテンツ企画事業が8700万円で1.5%、その他事業が7400万円で1.3%です。
ほとんどの事業が前期比で売上減となるなか、美容事業は同431.9%増に成長しました。これは当期より「Bianca」グループが新たに加わったためです。
セグメント別の営業利益(調整前)は、カラオケルーム運営事業が5800万円、飲食事業が1400万円、美容事業が1億9000万円、メディア・コンテンツ企画事業が7100万円。その他事業は3900万円の営業赤字でした。美容事業の健闘が最終黒字の確保に貢献しています。
平均年齢37歳、平均年収470万円
鉄人化計画の2022年8月期末の従業員数は、単体101人、連結278人。単体従業員数は2017年8月期の129人から163人→175人と一時増加しましたが、2021年8月期に110人へ減っています。
連結従業員数は、2019年8月期までは単体と同じでしたが、2020年8月期より236人→165人と推移し、2022年8月期末には前期比で113人増えています。これは2021年12月に美容事業のビアンカグループ6社が連結子会社化したためで、現状では連結従業員数の半数以上を美容事業が占めていることになります。
鉄人化計画の平均年間給与(単体)は、2022年8月期は470万4425円に。平均年齢は37.1歳、平均勤続年数は6.6年です。
2019年8月期に若手従業員が増え、平均年齢が若返り、平均勤続年数が短くなったとともに、平均年間給与が下がりました。
その後、コロナ禍に入って人員が減り、平均年齢も自然と上昇。平均年間給与も落ち込んでいましたが、2022年8月期になってやや回復しています。
なお、同業他社と比較すると、「ビッグエコー」を運営する第一興商の従業員の平均年間給与(2022年3月期)は、586万3963円(平均年齢41.3歳、平均勤続年数12.5年)でした。
鉄人化計画の採用サイトを見ると、「店長/店長候補」「システムエンジニア」「グラフィックデザイナー」「バックオフィススタッフ」の求人が募集されています。
システムエンジニアの基本給は「経験に合わせて応相談」で19.5万円から30万円。一部屋で全メーカーのカラオケを選曲できる「鉄人システム」などのシステムを自社開発・運用しており、ユニークな仕事ができそうです。
「カラオケ離れ」をどう乗り切るか...明るい兆しも!
首都圏の人たちには「カラオケの鉄人」で知られる鉄人化計画ですが、事業の多角化と見直しによる試行錯誤を繰り返しています。コロナ禍やテレワークの定着により主軸のカラオケの利用客数が大幅に減り、物価高も相まって「カラオケ離れ」が懸念されます。
前述の通り「継続企業の前提に関する重要事象等」も記載されており、今後は経営資源の選択、店舗運営コストの効率化、本社運営コストのスリム化、収益基盤事業のシフトに取り組む必要があります。
なかでも近年進出した「美容事業」に新たな収益基盤事業となる兆しがあり、期待されます。他社に先駆けた経営体質の強化が会社の継続可能性を高める可能性もあり、今後が注目されます。
なお、鉄人化計画の株価は2022年1月に415円の高値を付けていますが、その後は急落。現在は200円台後半を推移しています。(こたつ経営研究所)