上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムです。
クラシコムは2006年、兄の青木耕平氏と妹の佐藤友子氏で創業。最初の事業に失敗し、「最後の社員旅行」で訪れた北欧で買い集めた雑貨販売にピボットします。創業時に2人で出資した800万円以外に、外部から資金調達をしないまま、上場を果たしたのも異例です。
創業以来16期連続で増収増益
それではまず、クラシコムの近年の業績の推移を見てみましょう。
クラシコムの業績はここ数期、順調に伸びています。2022年7月期の売上高は4期前の2.4倍となる51.6億円に達しました。営業利益は8.4億円で、営業利益率は前期比でやや悪化していますが、16.3%と高い水準を達成しています。
経常利益も一貫して右肩上がりで、創業時から16期連続で増収増益。2022年7月期の最終利益のみ前期比で若干減っていますが、これは2021年7月期に「特別利益」として、関連会社清算益1202万円が計上されていた反動などが影響しています。
なお、クラシコムは2022年8月5日に東証グロース市場に上場し、2022年7月期に営業外費用として上場費用703万円を計上しています。
従業員数は79人(2022年7月末現在)と少数精鋭で、従業員ひとりあたりの売上高は6500万円あまり、営業利益は1000万円を超えています。
2023年7月期の業績予想はレンジ予想で、売上高が58億0100万円~60億4400万円、営業利益は8億6600万円~9億0300万円、最終利益は6億100万円~6億2600万円と、いずれも過去最高を更新する見込みですが、営業利益率は3.0~7.3%と悪化する予想です。
自社サイトでオリジナル商品を販売する「D2C」で成長
クラシコムは2006年、「不動産を扱うIT事業」を行う会社として東京都港区に設立されましたが、翌年には早くも事業を閉鎖。東京都国立市に移転し、ヴィンテージの北欧食器等を扱うECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開設しました。
現在では北欧関係のものが占める割合は小さくなったものの、「暮らしを自分らしく、美しいものにすること」「日常のささやかな幸せを大事にすること」といった北欧カルチャーに根ざした事業を行っています。
クラシコムは「ライフカルチャープラットフォーム」の単一セグメントですが、「D2C」と「ブランドソリューション」の2つのドメインで事業を展開しています。
D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、ユーザーと直接接点を持ち、ECモールやECプラットフォームを介さず、自社サイトを通じて商品を直接提供するビジネスをおこなっています。取り扱い商品はアパレル、キッチン、インテリア雑貨が主力です。
ブランドソリューションは、クライアントのブランドや商品を「北欧、暮らしの道具店」サイト上で読み物の一つとして掲載する「BRAND NOTE」などを通じた販促支援、すなわち広告事業で、2022年7月末現在で160を超えるブランドを支援しています。
2022年7月期の売上高構成比は、D2Cドメインが48億6006万円(前期比13.9%増)で全体の94%を占めており、ブランドソリューションドメインは3億0307万円(同14.1%増)です。
ドメインごとの営業利益は明らかにされていませんが、D2Cドメインにおける定価消化率は97.7%(2022年7月期実績)で、「ポイント原資」の負担がなく、ほぼすべての注文において送料を受領しているとのこと。自社企画のオリジナル商品が売上高の約半数を占め、高い利益率となるビジネスモデルを確立しています。
平均年齢34歳、平均年収584万円
クラシコムの従業員数は、2018年7月期末の52人から、55人→65人→72人と順調に増え、2022年7月期末には79人に達しています。
パート・アルバイトを含む臨時雇用者数も、従業員(社員)数の100分の10未満、つまり7人未満と非常に少なく、記載が省略されているほどです。
売上高50億円超の企業としては比較的少なく、少数精鋭といえるでしょう。なお、ブレない世界観を作り続けるため、従業員の大半がクラシコムの元顧客だそう。
クラシコムの平均年間給与(単体)は、2022年7月期は584.7万円に。平均年齢は34.2歳、平均勤続年数は4.1年です。なお、上場時の有価証券届出書によると、2022年5月末時点での従業員数は77人で、平均年間給与は647.4万円でした。
クラシコムの採用サイトを見ると、WEBエンジニア、オリジナルアパレル生産管理、広報担当といった職種での募集が行われています。
生産管理職の場合、モデル年収は430万円以上で、固定残業代(月5時間)と月額報酬3か月分の賞与込みの額です。午前8時から午後7時の間でのフレックスタイム制(コアタイムなし)で、全社の平均残業時間は4.8時間と最小限です。
職種に応じて週1?2回程度のオフィスや取材先への出勤が発生するものの、現在は基本はリモートワークで稼働しているようです。
代表は「上場するなら市場環境が悪いときに」
2022年8月5日に東証グロース市場に上場したクラシコムの公開価格は1420円、初値は1520円で、上場直後に1962円の高値を付けたこともありました。しかし、その後は1000円を切って、9月28日に977円となるなど落ち込みました。現在は1300円台後半を付けています。
創業者で現代表取締役の青木耕平氏はウェブ上に公開した社史で「上場するなら市場環境が悪いときのほうが合うのではないか」と明かしています。その方が「現在の企業価値だけにフォーカスが当たりやすくなる」という理由です。
あらためて2022年7月期の有価証券報告書を見ると、アプリダウンロードの訴求等のための広告費が3億9182万円となったことが記載されています。これは売上高の7.6%に過ぎません。このあたりも、高い利益率の理由のひとつとなっています。
また、上場時の「目論見書」によると、クラシコムのビジネスモデルは、D2Cおよびブランドソリューションといった事業を支える基盤として「カルチャーアセット」、さらにその下に「エンゲージメントアセット」を備えている、としています。
エンゲージメントアセットは、SNSプラットフォームで顧客層にアクセスする「EARNED CHANNELS」と、メルマガや自社サイトなど自社プラットフォームで顧客層にアクセスする「OWNED CHANNELS」の2本立てで展開しています。
カルチャーアセットは、コンテンツとブランド、そしてデータで構成されています。これらアセットを効果的、効率的に活用することで、広告費を必要としない高利益率のビジネスが確立できていると見られます。
クラシコムがユーザーに提供しているコンテンツは「商品とそれにまつわるユーザー体験」のほか、ECで取り扱っている商品について、バイヤーやプランナーが込めた想いを紹介するもの。ほかに、スタッフが自身の生活について綴るコラムなどの「読み物」を月間100本程度サイトに掲載しています。
さらには、短編ドラマ「青葉家のテーブル」(後に長編映画化、劇場公開)や「ひとりごとエプロン」(後にDVD化)、Podcast「日曜ラジオ チャポンと行こう!」など自社コンテンツを制作・提供するだけでなく、海外映画祭で買い付けた映画「離ればなれになっても」の全国劇場公開など新たなビジネスも展開しています。(こたつ経営研究所)