「米国ねじれ議会」、世界金融市場の混乱に波及する?
(6)人民元の下落:2022年、中国人民元は対米ドルで年初来対比マイナス9.4%と大幅に下落(12月19日時点)。元安進展の背景には、感染再拡大に伴う景気後退懸念や、利上げペースを加速させる米国と金融緩和を続ける中国の金融政策の違いがある。
(7)新興国通貨の下落リスク:人民元だけでなく、他の新興国通貨の中にも下落リスクを意識すべきものが多い。2022年は、世界的なインフレと米欧中銀による急ピッチな利上げを受け、多くの新興国で通貨安が進んだ。2023年は、ファンダメンタルズや政治情勢に脆さを抱える一部の新興国で通貨安がさらに進むリスクがある。
特に懸念される国はトルコだ。トルコでは、インフレ率80%台へ暴騰しているのに、トルコ中銀はエルドアン大統領の「助言」に沿って厳しいインフレ下でも政策金利を下げ続け、内需をふかす一方、資金の海外流出と通貨リラ安を通じて、インフレ圧力を上昇させるスパイラルを招いている。
(8)米国のねじれ議会:大統領選を翌年(2024年)に控えた米国では、政治の不安定さもリスク要因となる。米国債の発行上限額を定めた法定債務上限は現状で31.4兆ドルだが、2023年後半にも債務上限に抵触する。
このため、米議会は債務上限を引き上げる対応を行う必要があるが、共和党の下院トップは民主党との交渉材料にこの問題を使うと明言、政治問題化は避けられない。
2023年は米国でさらなる利上げが見込まれ、金融市場は変動の大きい状況が続くだけに、米国債のデフォルト(債務不履行)懸念が生じるだけでも、世界の金融市場の混乱に波及する可能性がある。
これやあれや、深刻なリスクが次々と襲ってきそうだが、武田氏らの研究チームはこう結んでいる。
「2023年は、ウクライナ情勢の好転が見込めない中で、欧米経済はインフレ抑制のための金融引き締めによる大幅な悪化が避けられず、中国はゼロコロナ政策の事実上の解除による感染急拡大で混乱が続くなど、極めて不確実性の高い状況が見込まれる。それでも、金融引き締めという人為的な景気減速が主因につき底割れは回避できると予想するが、(中略)世界経済に影響を与えるリスク要因が各地に散在しており、その動静には十分留意が必要である」
(福田和郎)