先進国経済は軒並みマイナス成長、スタグフレーションのリスクも
「2023年はインフレが世界を席巻し、その沈静化には先進国経済の景気後退が伴う。そして、スタグフレーションのリスクに傾斜する」と厳しく予想するのは、シュローダー・インベストメント・マネジメントのチーフ・エコノミスト&ストラテジストのキース・ウエード氏だ。
ウエード氏はリポート「2023年市場見通し 世界経済インフレに注視」(12月21日付)のなかで、シュローダーが予想する2023年の世界主要国と地域の経済成長率見通しの表(緑色がシュローダーの予想)を示した【図表2】。
これを見ると、世界全体が2022年はプラス2.7%の成長率なのに、2023年は1.3%に落ち込む見通し。なかでも注目すべきは、先進国の数字だ。米国マイナス1.0%、ユーロ圏マイナス0.1%(うちドイツ・マイナス0.4%)、英国マイナス0.8%と、軒並みマイナスに転落。先進国全体でマイナス0.2%というありさまだ【再び図表2】。
特に悪いのは米国だが、同社が調査した「米国の生産性成長率の推移」のグラフを見ると、企業の生産性は現在、過去70年で最悪水準だった1970年代半ばのレベルに落ちていることがわかる【図表3】。
ウエード氏はこう指摘する。
「景気後退による影響はまだ感じられなくとも、今後見込まれる景気後退を受け入れることが現段階では重要といえます。米国テクノロジー企業で実施された約8万5000人ともいわれる解雇は、今後見込まれる苦境を想像させます。インフレ鎮静化に伴うコストは、経済成長率の減速と失業率の上昇であると考えます。
また、米国経済が減速することで、賃金、物価、インフレをコントロールする必要があります。これにより、失業率は2023年4~6月期にNAIRU(インフレを加速させない失業率を指し、米国では4.5%程度とされる)を上回る水準に上昇し、2023年末には足元の約2倍である7%程度に上昇すると考えます」
こうした先進国が激しいインフレで苦境に立たされている背景には、コロナの影響もあると、ウエード氏はこう指摘する。
「足元の景気サイクルで課題となるのは、パンデミックが労働供給に影響を与えたことといえます。例えば、英国では約60万人、米国では200万人程度が労働市場から去っています。その結果、すでに先進国市場の労働市場は供給が不足しており、タイトな状況が続いています」
「このような環境下、米国の生産性の成長率は大きく低下し、足元では過去最低の水準で推移しています【図表3】。通常の環境下では、労働コストの上昇は人員削減の動きにつながりますが、足元では、まだこの動きは見られていません。
企業は、経済成長が回復した時に再度人員を増やすのが難しいとの懸念があることから、人員削減に抵抗がある可能性があると考えています。これまでのところ、高いコスト(エネルギー、原料、労働)を価格に転嫁することで成り立っており、インフレ圧力につながっています」
コロナが生み出した人出不足によって、インフレの悪循環に陥っている、というわけだ。