ハードウェアからサービスへと社業の軸足を移すアップル
アイブは1998年に発売された新製品iMacの大ヒットに貢献した。丈夫で半透明なプラスチック製シェルは、標準的なコンピュータの筐体の3倍かかったが、ジョブズが押し切った。「最初にデザインありき」が、新しい進め方になった。その成功は、会社のイメージと経営状況を一変させた。
ジョブズがアイブの地位を引き上げたため、デザインスタジオが製品開発をリードするようになった。iPhone、iPadと2人はコンビを組んだが、「アップルのイノベーションはジョブズから生まれている」という受け止め方は、アイブには不満だったという。
一方のクックは、自社工場を閉鎖して中国の委託工場に生産を委ね、利益を上げた。委託工場にしてみれば、市場のどこよりも低い価格を要求されたが、アップルのエンジニアから最先端の製造技術を学び、そこで得た技能を、他の家電メーカーに売り込むことができたので、厳しい条件を受け入れた。
ジョブズの死後、ソフトウェアの天才と言われたフォーストールがマップのトラブルで失脚。唯一のライバルは排除された。アイブもまた、自身が発案したアップルウォッチの低迷で燃え尽きた。アイブは現在、アップルを離れ、デザイン会社を立ち上げて活躍している。
著者は、クックとアイブの成功は「社内離婚という失望で暗転した。二人の協力体制の解消は必然だった」と見ている。アップルはハードウェアからサービスへと社業の軸足を移したため、二人をつないでいた糸はほつれた、と結んでいる。
秘密のベールに覆われていたアップルの内情が、詳しく描かれているところに、本書の価値がある。
アップル製品をさまざま愛用している人にとって、より製品が身近に感じられるだろう。そして、途方もないエネルギーがそれらを生み出したことを知るだろう。(渡辺淳悦)
「AFTER STEVE アフター・スティーブ」
トリップ・ミックル著、棚橋志行訳
ハーパーコリンズ・ジャパン
2640円(税込)