「行き着くところまできた感がある」
霞が関の某省庁幹部はため息まじりに、こうつぶやいた。
政府が22年12月23日に閣議決定した2023年度当初予算案のことだ。
将来にわたる防衛費の大幅増額に踏み出したことで、日本という国の借金拡大は、新たな段階にステップアップした。
国債頼りの厳しい財政状況に拍車 23年度は35兆6230億円の国債発行
2023年度の一般会計の総額は114兆3812億円。22年度当初予算から6兆7848億円も増え、11年連続で過去最大を更新した。
これに対し、歳入の柱である税収は69兆441億円。法人税収などの増収を見込んだ結果、当初予算としては最大になるものの、歳出全体の6割程度しか賄えない。
このため、23年度も当初段階で国の借金に当たる国債を35兆6230億円発行する。国債頼りの厳しい財政状況に拍車がかかることになりそうだ。
冒頭の省庁幹部が嘆くのは、23年度当初予算の肥大化要因が従来の当初予算とは決定的に違うためだ。
従来の当初予算の押し上げ要因は、歳出の3分の1を占める社会保障費の増大だった。少子高齢化に伴う自然増が避けられず、これが財政を圧迫し続けてきた。
だが、2023年度はこれに防衛費の増額が重なる。
防衛力強化を目指す岸田文雄政権は、防衛費と関係費の総額を27年度に国内総生産(GDP)比2%に引き上げる方針を掲げている。今後5年間で43兆円を防衛費に充てるとしており、従来に比べ計17兆円も積み増す必要がある。
その初年度に当たる23年度は防衛費に過去最大となる6兆8219億円を計上した。22年度当初比1兆4214億円の増額となり、GDP比は22年度の0.96%から1.19%に拡大する計算だ。
さらに政府は、防衛費増額に対応するため、複数年度にわたって使える「防衛力強化資金」を新設。23年度は特別会計の剰余金や国有財産の売却などから23年度の防衛費を除いた3兆3806億円を計上した。
歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける...政治の無責任
もっとも、最大の問題は、防衛費増額の財源がいまだ不明確なことだ。
政府・与党は2022年末の税制改正議論で、防衛費増額の財源に、法人税、所得税、たばこ税の増税で対応する方針を23年度税制改正大綱で示したものの、引き上げ時期の明記は見送られた。
23年度以降の税制改正議論で増税に向けた道筋を具体化するというが、国民受けの悪い増税には自民党内などの反発が強く一筋縄ではいかない。
新設の防衛力強化資金に充てた国有財産の売却なども、あくまで一時的な収入に過ぎず、安定財源とはとても言えない。それも27年度までの5年間分を決めただけで、その先の見通しは立っていない。
「防衛費増額の財源が不足すれば、国債発行でまかなうしかなくなる。それだけでは何としても避ける必要がある」
政府関係者はこう指摘するが、23年度当初予算でさえ、本来は他の事業に充てるべき財源をかき集めて、何とか体裁を整えたに過ぎない。岸田政権は財源が固まらないまま、防衛費増額へと見切り発車したのだ。
「社会保障費に、防衛費増額が加わり、歳出の拡大は確実に新たなステージに突入した」
財務省からはこんな声が聞こえてくる。
当初予算の止まらない肥大化は、国民受けのいい政策に熱を入れ、歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける政治の無責任体質の象徴といえそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)