2022年は世界に歴史的な高インフレが発生し、欧米など多くの国で厳しい金融引き締めを余儀なくされた。また、ロシアがウクライナに侵略、エネルギー価格が高騰し、世界同時経済減速の危機が迫りつつある。
コロナ禍から立ち直ろうとしている日本でも、物価上昇の荒波が押し寄せている。2023年の日本経済はどうなるのか。
シンクタンクの「2023年経済予測」を読み解く。第一弾は、日本経済の明日から――。
米国・欧州・中国のトリプリリスクが顕在化すると...
現在、日本経済は回復基調にあるとはいえ、世界に目を向けると不安材料ばかりだ。
米国経済の減速、中国でのコロナの感染急拡大、金融引き締めによる欧州の景気悪化、ウクライナ危機を背景にしたエネルギー価格の高騰......。そして、日本国内でも消費者物価の上昇が収まる兆しを見せない。
こうした状況を比較的厳しく注視して、10ページのリポート「2023年の日本経済見通し 実質GDP成長率はプラス2%程度を見込むもののマイナスに転じることも」(12月21日付)にまとめたのが、大和総研シニアエコノミストの神田慶司氏と、エコノミストの小林若葉氏の2人だ。
神田氏らは、2023年の日本経済で考えられる景気のプラス面とマイナス面の要因を表にまとめた【図表1】。これを見ると、プラス、マイナスにたくさんの項目が並ぶ。
そして、2023年の日本経済で想定されるメインシナリオをこう説明する。
「メインシナリオでは、2023年の日本の実質GDP成長率を前年比プラス1.9%と見込んでいる。サービス消費・インバウンド(訪日外客)・自動車生産を中心に回復余地が大きいことに加え、緩和的な財政・金融政策が継続するとみられる。また、約55兆円の『過剰貯蓄』と経済対策が物価高の悪影響を緩和するだろう」
「約40年ぶりの高インフレや人手不足などを背景に、2023年の春闘では賃金改定率が大幅に上昇する可能性がある。日本銀行は2022年12月の金融政策決定会合で長期金利の変動幅の拡大などを決定したが、賃金と物価の循環的な上昇を明確に確認するまでは長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を維持するとみている」
このように、順調な景気回復の道をたどりそうなのだ。
なかでもいい材料は、コロナの水際対策の緩和によってインバウンドの大幅な増加が見込まれることだ。また、半導体不足の問題が解決されて、自動車の挽回生産が加速する期待も大きい。
しかし、神田氏らが一番懸念しているのは「世界同時不況」の発生だ。
その危機は、米国から始まるという。具体的には、米国で失業率が10%近くまで上昇し、ユーロ圏で金融機関のレバレッジが15%縮小する信用収縮が発生。そして、中国で複数の大都市がロックダウンし、不動産市場の大幅な縮小が加われば、「世界同時不況」が起こるというのだ。
【図表2】が米国・欧州・中国の深刻なリスクが顕在化した場合、各地域・国がこうむることになる被害(2023年の実質GDP成長率見通し)だ。日本はメインシナリオではプラス1.9%だったのに、マイナス4%台に落ち込むことになる。
神田氏らのリポートはこう結んでいる。
「2023年はとりわけ、米国で失業率の大幅な上昇と深刻な景気後退を招くかどうかが注目される。米連邦準備制度理事会(FRB)や、当社のメインシナリオでは失業率の緩やかな上昇を見込んでいる一方、元財務長官のサマーズ氏らは労働市場のミスマッチの影響で失業率は大幅な上昇を余儀なくされるとみている」
「後者の見方が正しければ、【図表2】の『米国要因』リスクが発現することになり、これだけでも日本はマイナス成長に転じることになる。日本は欧米主要国に比べて、景気の回復基調が継続しやすい環境にあるものの、米国を中心とする海外経済の大幅な悪化には警戒が必要だ」
強い逆風の中でも、日本経済が腰折れしない5つの理由
一方、こうしたリスクがあるものの、やや楽観的に見ているのが、伊藤忠総研のチーフエコノミスト武田淳氏と、副主任研究員中浜萌氏の2人だ。
2人がまとめたリポート「日本経済2022年の回顧と2023年の展望-日本経済情報2022年12月号」(12月21日付)によると、「2023年は、物価上昇と海外景気悪化という強い逆風の中で、景気腰折れを回避し、経済活動の正常化と安定成長によるデフレからの完全脱却に挑戦する年となる」という。
そして、伊藤忠総研では以前から「景気が腰折れしない5つの理由」を挙げており、それが大筋で今回も当てはまる状況だというのだ。その5つの理由とは、これだ。
(1)欧米に比べ、脱コロナに出遅れているから、逆にコロナ禍からの需要回復の余地が大きい。
(2)欧米に比べ、インフレ率が低い。
(3)日本銀行が金融緩和を継続している。
(4)企業の姿勢が前向きである。
(5)インバウンド需要の回復しつつある。
これらの5つを改めて点検すると、(1)はやっと水際対策を緩和したばかり。(2)のインフレ率は、足元で高まっているが、今後は鈍化して賃金の上昇でおおむねカバーできる。強制貯蓄もあり、個人消費は拡大を維持している。
問題は(3)の日本銀行の金融緩和の継続だ。12月20日に日本銀行は政策決定会合で、長期政策金利を事実上引き上げたため、継続の可能性が低下した。しかし、(4)の企業の姿勢は、人手不足が極まり設備の不足感も確認され、雇用や設備投資の拡大積極化が期待できる状況。(5)のインバウンド需要は訪日外国人の数が増えている。
このように、日本銀行の想定外の金融政策変更と、不透明感を強める海外景気という懸念材料が加わったが、なにより岸田文雄政権がまとめた、総額29兆円の2次補正予算で具体化した大型の「総合景気対策」の下支えが大きいという【図表3】。
リポートは、こう結んでいる。
「デフレ脱却に必要な需給ギャップの解消は、2024年に入ってからとなる可能性が高いが、2023年終盤には需給ギャップの縮小が続く下で、賃金上昇の後押しもあり一定の物価上昇が続くと予想される。2023年は、デフレからの完全脱却が展望できる年となりそうであるが、金利の本格上昇に備えるべき年とも言えよう」
円高で2023年はピンチの日本株、投資妙味に注目を
さて、2023年の日本株の見通しはどうなるだろうか。
「2023年は、総裁が変わる日本銀行の金融政策や、円高に振れる為替動向に注目が集まるが、日本株は森よりも木を見ることが重要だ」と指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏はリポート「2023年の日本市場見通し」の中で、TOPIX(東証株価指数)と米ドル円レートの推移を比較したグラフを載せた【図表4】。
これを見ると、円相場が対米ドルでマイナス(円高)に転じると、TOPIX(東証株価指数)も下がり、円高が日本株の上値圧迫要因になることがわかる。そして、石黒氏はこう説明するのだ。
「今後、米国を中心に世界的な利上げが一巡するとみられることから、為替相場の方向性としては円高バイアスがかかる状況が続くと考えられます。 こうした局面では日本株が冴えなかったケースが多く、2023年も同様の展開が想定されます」
では、どうすればよいのだろうか。石黒氏はこうアドバイスするのだった。
「もっとも、視点を変えれば投資機会はあります。日本を代表する100社で構成されるTOPIX100の中で、直近10年間の純利益増加額上位20社のパフォーマンスをみると、TOPIXを上回るだけでなく、米S&P500種株価指数にも勝る動きとなっています【図表5】」
「外部環境の変化に強い日本企業も存在しており、日本株は『森よりも木をみる』投資スタンスが適しているといえそうです。また、世界と比べ相対的に低金利環境が続くと想定されることから、リートにも投資妙味があるといえるでしょう」
(福田和郎)