2023年はどんな年に?...おなじみ「日経業界地図」注目のキーワードは?

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   2023年の予測本がさまざま出るなかで、手っ取り早く自分が関連する業界の見取り図を知りたいという人に勧めたいのが、本書「日経業界地図2023年版」(日本経済新聞出版)である。

   177業界の4400企業・団体について、チャート図などを使い、ビジュアルに解説している。眺めているだけで、業界の動向と会社の姿が見えてくる。

「日経業界地図2023年版」(日本経済新聞社編)日本経済新聞出版

デフレからインフレへの移行、ビジネスチャンス?

   個別の業界地図に入る前に、「巻頭特集」が充実しているので紹介したい。

   「デフレからインフレへの移行 そこにあるビジネスチャンス」と題した、広木隆氏(マネックス証券チーフ・ストラテジスト)の解説が、今後の日本経済のあるべきトレンドを示している。

   長く日本で続いてきたデフレ。「モノの値段はいずれ安くなる。だったらいま買わずに現金をキープして、安くなったら買えばいい」というデフレ思考が定着し、ますます景気が悪くなり、さらにデフレが進むという悪循環に陥っていた。

   異常なデフレから正常なインフレに移行できれば、日本にとって大きな転換点になる、と指摘する。コロナ禍が落ち着けば、「いつまたパンデミックが来るか分からない」という思いから、「行きたいところに行って、やりたいことをやっておかなければ」というインフレ思考に変わるだろう。

   また、電力の逼迫、銀行システムの停止、高速道路の老朽化など多発しているインフラのトラブルも、インフレになれば「すぐ解決に取り組まなければ」という考え方に変わり、たとえば、再生可能エネルギーを貯める大規模な蓄電池工場の建設などのビジネスチャンスが生まれるという。

   さらに、岸田政権が掲げる人的資本への投資が進めば、賃金の上昇につながり、インフレへの足がかりにもなる、と期待している。

「水素」関連技術に大きな期待

   巻頭特集のもう1つの柱が、「有望な100の技術」だ。

   日経BPの専門媒体編集部と総合研究所がまとめたもので、IT(情報技術)と他の技術を組み合わせたものが多い。変わったものでは、走行中のEVに道路から電気を供給する「給電道路」、「遠隔操作式の人型重機」、住人の健康やエネルギー利用の状況などを自動で把握する「IoT住宅」などを挙げている。

   これらの技術を対象に、ビジネスパーソン1200人に「2030年に期待できる」技術を尋ねた「テクノロジー期待度番付」も興味深い。

   1位は「水素の大量輸送」だ。生産地でトルエンと反応させタンカーで輸送、需要地で戻すものだ。2位は「CO2フリー水素」。太陽光や風力など再生可能エネルギーでつくった水素だ。

   3位の「e-Fuel(代替燃料)」は、余剰電力でつくった水素と濃縮回収したCO2を合成したもの。8位「水素エンジン」、14位「水素タービン」など水素に関連する技術に期待が集まっている。

「メタバース」や「自動車」はどうなる?

   いよいよ業界地図だ。業界の勢力関係、企業間の提携・出資関係などがチャート図により一目でわかる。

   企業の業績や初任給、平均年齢なども掲載している。また、日本経済新聞の記者が業界の基礎知識、最近の動向、今後の焦点を解説している。

   注目業界から始まり、「メタバース」「eスポーツ」「ベンチャーキャピタル」「AIベンチャー」「サイバーセキュリティ」「医療・介護ロボット」などの12業界が並ぶ。

   その中からコロナ禍で普及し始めた「ワーケーション」について、詳しく見てみよう。以下の4つの類型がある。

1 拠点移動・多拠点型 三井不動産の「WORK STYLING」は全国約150拠点のサテライトオフィス
2 休暇活用・観光・ウェルビーイング型 JTB、エイチ・アイ・エスなどが展開
3 地域課題解決・副業支援型 「パソナ JOB HUB」が企業向けにサービス
4 会議・研修型 三菱地所がワーケーション施設を南紀白浜などに持ち、JTBと提携

   最近の動向として、仮想現実(VR)のメタバースや独自のアバター関連の開発が進み、デジタル空間にもう1つの「社会」が出来上がりつつある。すると、どの場所から参加しているかは、ほとんど意味がなくなり、いっそうワーケーションが進む、と見ている。

   自動車については、国内、世界、自動車部品・タイヤ、自動運転、カーシェアとさらに業界ごとに解説。関心が高まる自動運転について、国内メーカーと国内通信大手、海外半導体・電機、海外部品・ITの各企業が複雑に合従連衡していることがわかる。

   高度な自動運転の実用化は、海外勢が先行。話題としては、米GM系のGMクルーズが2022年6月、米カリフォルニア州当局から運転手不要のタクシー事業免許を取得したこと。また、中国IT大手の百度(バイドゥ)は21年、北京市内で同国初となる有料の自動運転タクシーの試験サービスを始めたことを紹介している。

地銀同士の再編、連携の動き

   ビジュアルが役に立つと思ったのは、「地方銀行」のページだ。

   見開きの日本地図の上に、地銀同士の再編や連携の動きがまとめられている。また、米金利の急激な上昇で、有価証券運用に苦戦する地銀が続出。含み損が100億円に膨らんだ地銀も出ており、そのうちの1行にあたるきらやか銀行(山形県)は、コロナ特例の公的資金申請を決定した。

   巻末にはソフトバンクグループ、楽天グループ、セブン&アイグループ、イオングループ、NTTグループなど巨大企業グループの項目もある。グループ内の位置付けがわかり、便利だ。

   書籍として、ユニークな特長がある。それは、電子書籍版をダウンロードするクーポンコードが付いていること。膨大な情報が詰め込まれているので、スマホやタブレットで折にふれ読むのがオススメ。決して飽きることがないだろう。(渡辺淳悦)

「日経業界地図2023年版」
日本経済新聞社編
日本経済新聞出版
1430円(税込)

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