上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、人気のイタリアンレストランチェーンを展開するサイゼリヤ(東証プライム市場)です。
1967年に現代表取締役会長の正垣泰彦氏が「レストラン サイゼリヤ」を創業。1973年に多店舗化に向けて法人化し、1999年に東証二部上場。2000年に東証一部上場を果たしました。2011年には1000店舗目の開店を達成し、現在では海外アジアにも事業を展開しています。
巨額の「補助金収入」でV字回復達成
それではまず、サイゼリヤの近年の業績の推移を見てみましょう。
サイゼリヤの売上高は2019年8月期まで順調に伸びており、営業利益率も2018年8月期は5.6%、2019年8月期は6.1%と改善を続けていました。
ところが、2020年1月に日本で最初の新型コロナウイルス感染症患者が確認されたのをきっかけに、飲食業は大打撃を受け、サイゼリヤも2020年8月期は減収減益で最終赤字に転落。翌2021年8月期も2期連続の営業赤字となりました。
その後、コロナ禍の影響が薄らぐ中、2022年8月期には3期ぶりの営業黒字を回復。さらに、コロナ前の水準を上回る経常利益、最終利益をあげています。
なお、収益の大幅改善に寄与したのが、営業外収入の「補助金収入」の増加。これは新型コロナに伴う時短協力金などによるもので、2021年8月期は48億2200万円、2022年8月期は98億6300万円にのぼっています。
2023年8月期は、売上高がコロナ前を超える1700億円、営業利益は75億円となるものの、最終利益は44億円と前期比減になる見込み。これも「補助金収入」がなくなる反動の影響が含まれています。
「日本」の営業赤字を「アジア」がカバー
サイゼリヤは「フードサービス事業」の単一セグメントですが、有価証券報告書には「日本」「豪州」「アジア」の3つの地域別の売上利益を記載しています。
2022年8月期は、「日本」が売上高1011億円(前期比17.3%増)、営業赤字21億円(前期は72億円の営業赤字)。中国・台湾・香港・シンガポールの海外店舗「アジア」が売上高431億円(前期比7.2%増)、営業利益22億円(前期比49.5%減)。使用する食材の製造等を行う「豪州」が売上高56億円(前期比17.4%増)、営業利益1億円(前期比80.3%減)でした。
日本は売上高の7割を占めるものの営業赤字に陥っており、営業利益はアジアで上げていた、ということになります。店舗数は、2022年8月期末現在で日本国内が1069店舗、海外が478店舗です。
なお、2022年11月に代表取締役社長に就任した松谷秀治氏が入社した1984年当時は、店舗数が10店舗ほどしかなかったそうです。
従業員の平均年齢は約40歳、平均年収は624万円
サイゼリヤの2022年8月期末の従業員数は単体2107人、連結3939人。単体従業員数と「日本」セグメントの従業員数は同じで、「アジア」が1764人、「豪州」が68人となっています。
連結従業員数は、2021年8月期末までは4000人を超えていましたが、2021年8月期はすべての地域で減少し3000人台に。特にアジアは、前期の1910人から150人近く減っています。
サイゼリヤの平均年間給与(単体)は、2021年8月期には551万円台に落ち込みましたが、2022年8月期には624万円台とコロナ禍前の水準に回復しています。
平均年齢は緩やかに上昇、平均勤続年数も短くなっていないことから、いわゆる大規模リストラは行わず、雇用の維持が図られていたと見られます。
なお、サイゼリヤには「サイゼリヤユニオン」という労働組合があり、UIゼンセンに加盟しています。
サイゼリヤの採用サイトを見ると、パート・アルバイト、新卒採用のほか、マネジャーを中心とする中途採用の募集が行われています。
募集している社員の職種は、新卒採用も中途採用も同じで「グローバル社員(マネジャー 総合職)」と「リージョナル社員 地域密着型マネジャー(地域職)」という2種類の募集があります。
初任給は、大卒・院卒の場合は前者が月22万7000円以上、後者が月20万5000円以上。賞与は年2回支給、昇格昇給は受験資格に応じて年1回あります。
福利厚生としては、勤務時に2000円までの食事が5割引きで利用できる「従業員食事補助制度」や、「サイゼリヤ従業員持ち株会制度」「ストックオプション制度」があり、グローバル社員の場合は「独身寮、社宅借上制度」があります。
食材高騰の中、「値上げ見送り」の影響は?
サイゼリヤの株価は、2022年4月に2238円の年初来最安値を付けましたが、2022年8月期の有価証券報告書が出た後に3000円台を回復しました。
12月9日には3115円の年初来高値を更新。2020年4月に記録した安値1608円の2倍近くに上がっています。
なお、外食業界はコロナ禍の影響が薄まる一方で、食材価格および資源価格の高騰の影響を受けており、厳しい状況が続いていくと見られます。
そんな中、コロナ禍で開始した冷凍食品の販売強化を継続。2021年12月には北海道旭川市、秋田県、2022年1月に鳥取県、6月に岩手県と新商圏に新店舗をオープンしています。
松谷社長は10月12日の記者会見で「安くて美味しいものを出すのが使命」として値上げを見送ると表明。2022年8月期の業績改善は「補助金収入」によるものでしたが、今後はコロナ禍の行動制限などがなくなった場合に、どこまで客足が戻り、収益が回復するのか期待されます。(こたつ経営研究所)