衰退の一途たどる労働組合...ピーク時から組合数は3割消滅 だが、組合員数は小幅な減少にとどまる「不思議」...変化した労組の性質には懸念(鷲尾香一)

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   労働組合が衰退の一途をたどっている。労働組合数は減少を続け、雇用者数に占める労働組合員数の割合である推定組織率は低下が続いている。

  • 厚労省の「令和4年労働組合基礎調査」に注目した
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組合員数は増加傾向だったが、20年・21年は2年連続減少

   厚生労働省が2022年12月16日に発表した「令和4年労働組合基礎調査」によると、2022年6月30日現在の労働組合数は2万3046組合、労働組合員数は999万2373人だった。

   前年比で労働組合数は346組合(1.5%)減、労働組合員数は8万5504人(0.8%)減少した。また、推定組織率16.5%で前年比0.4ポイント低下した。

   労働組合数は1994年のピークだった3万2581組合から22年には9535組合(29.3%)が消滅した。ここ20年間でも、02年の3万177組合から7131組合(23.6%)も減少している。(表1)

   労働組合数の減少と共に、組合員数も大幅に減少している。

   ピークだった1994年に1269万8847人もいた組合員は、22年に再び1000万人を割り込んだ。1994年から2022年の間に、207万6474人(21.3%)減少した。

   ただ、ここ20年の動きを見ると、2002年に1080万608人だった組合員数は、2014年には984万9176人にまで減少したが、その後は増加に転じていた。2020年には1011万5447人にまで回復したが、2021年、2022年と2年連続で減少した。

   組合数と組合員数の減少により推定組織率は、ピークの1949年の55.8%から低下を続けている。労働者の半数以上が組合員だった時代から今では10人に1.6人しか組合員はいない。(表2)

   労働組合が弱体化していった要因はさまざまだが、いくつかの大きな要因がある。

   その一つが、組合活動が非常に活発だった国鉄や電電公社が民営化されたことで、公務員から民間企業の社員となった組合員に対し、経営者側の「締め付け」が強く働くようになったと言われている。

非正規雇用者の組合加入が増える...推定組織率は8.5%と、まだ低いのが実情

   一方で、組合数が減少を続けているのに対して、組合員数が小幅な減少にとどまっている背景には、「大幅に増加した非正規雇用者」が組合に加入していることがある。

   2017年に120万8000人だったパートタイム労働者(非正規雇用者)の組合員は、2022年には140万4000人まで増加した。5年間で19万6000人(16.2%)も組合員が増加しているのだ。

   全組合員に占めるパートタイム労働者組合員の割合も2017年の12.2%から、2022年には14.1%に増加している。もっとも、それでも、パートタイム労働者の推定組織率は8.5%に過ぎず、組合に加入しているパートタイム労働者は10人に1人もいないのが実情だ。(表3)

   そして、労働組合の性質も変化した。

   かつては、経営者と労働者という対立構造が労働組合運動にはあった。だが、それが徐々に、労働組合は組合役員が経営者側の意向に沿った人であったり、組合役員経験が「出世の手段」となっていたり、組合活動の経費の多くが会社の補助によるものになっているなど、自主性に欠ける「御用組合化」が進んだ。

   労働組合法では、経営側の利益を代表する組合員の参加や、組合運営の経費の援助を適用外としている。したがって、御用組合化しようとする行為は、労働組合とは認定されず、不当労働行為として禁止されている。それでも、水面下では経営側の組合への関与は進み、組合と経営者の対立構造は崩れた。

   加えて、個人の能力や実績が重視され、転職など人材の流動化が進んだことで、年功序列や終身雇用といった日本型経営が崩れ始め、労働者側の一体感が薄れたことも大きい。

   さらに、長い年月をかけて労働関連法規は整備され、従来は労使間の争点であった所定外労働や休日労働、あるいは休暇制度、パワーハラスメントを含めたハラスメント問題等々、さまざまな問題が法律や制度化によって、解決されてきている点も影響している。

   しかし、依然としてブラックと呼ばれる企業は存在しているし、さまざまなハラスメントや経営側による不当行為は行われている。

   なにによりも、非正規雇用者が増加しているからこそ、労働者が基本的な人権と労働権のもとで雇用を守っていくためには、まだまだ、労働組合は重要な役割を担っている。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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