子育て環境を充実させる施策の財源は?
岸田文雄政権は2022年末にかけ、安保政策で反撃(敵基地攻撃)能力保持、エネルギー政策で原発の新設・建て替え容認など、日本の未来にかかわる政策の転換を矢継ぎ早に決めた。
だが、最重要政策の一つである社会保障については、多くの部分を実質先送りした。なかでも、少子化対策など子ども関連予算の裏付けとなる財源の議論は深まらないままの年越しになる。
出産家庭、短時間勤務者、自営業者などへの支援、児童手当など...取り組むべき課題は?
社会保障について幅広く議論する政府の「全世代型社会保障構築会議」(座長・清家篤元慶応義塾長)は2022年12月16日、子育てや医療、介護分野などの、これからの方向性や当面のスケジュールを盛り込んだ報告書をまとめ、岸田首相に提出した。
会議の名前の通り、これまでの政策が高齢者に偏っていたという反省からスタート。給付は高齢者、負担は現役世代という現状からの転換を目指し、少子化対策を含む若年層への施策を手厚くすることが昨今の社会保障の議論の大きな流れだ。
報告書は、まず現状について「本格的な少子高齢化・人口減少時代の歴史的転換期」にあると指摘し、とくに少子化を「国の存続に関わる問題」と強調。子育て支援や少子化対策を最優先課題とした。
具体的には、(1)0~2歳児を育てる保護者への「伴走型支援」として、妊娠出産期に計10万円相当を支給、(2)短時間勤務の労働者への新たな給付、(3)フリーランスや自営業者向けの子育て期の給付、(4)児童手当(中学校卒業まで原則として1人月額1万~1万5000円)の将来的な拡充――などの子育て支援策を盛り込んだ。
(1)について、政府は10万円給付を2022年度内に始める方針。(2)の時短勤務する人への給付は雇用保険の加入者が対象で、子どもが3歳になるまでの間、賃金の一定割合を支給する方向。(3)のフリーランスへの給付、(4)の児童手当については2023年に議論を具体化させる考えだ。
少子化対策以外は、医療制度で75歳以上の後期高齢者の保険料に関し、所得に応じて負担を求めるとして、年収153万円を超す人(全体の約4割)を対象に、24~25年度に段階的に実施する方向だ。
介護制度をめぐっては、来夏に先送りしたが、高所得の75歳以上の保険料引き上げやサービス利用の自己負担増が論点で、医療保険同様、高齢者の負担増がポイントになる。
年金については、短時間労働者が、国民年金より給付の手厚い厚生年金に加入するための企業規模要件撤廃を掲げた。
恒久化目指す出産家庭への「交付金」、毎年度1000億円規模に...24年度以降は、財源の当てがなく
社会保障をめぐる議論は、継続的に重ねられてきおり、今回の報告書は、そうした議論を集約したものといえる。
今回、「国の存続に関わる問題」と位置付けた少子化対策は、岸田首相が「子育て予算倍増」を掲げているだけに、最大の目玉になるはずだった。しかし、肝心の財源は「企業を含め社会全体で広く負担し支える仕組み」を検討するとしたのみで、先送りにしたことから、一気に色あせたかっこうだ。
年末までに決着しなければならない最大の課題が、防衛費。23~27年度の5年間で17兆円の増額を賄う財源の捻出に政府の力の多くが注がれ、「子育ての財源まで手が回らなかった」(政府関係者)。
象徴的だったのが、報告書にも盛り込まれ、実施が決まった出産家庭への10万円相当の「交付金」の財源だ。
首相は交付金を恒久化すると明言している。そのためには、毎年度1000億円規模が必要だ。23年度分は成立済みの22年度第2次補正予算などで賄えるが、24年度以降は当てがない。
一時は、与党を中心に防衛費に充てる増税に合わせ、交付金の予算も増税で賄う案が浮上した。しかし、並行して進んでいた23年度税制改正の議論が、防衛増税を巡って紛糾。
官邸では「防衛費でも拙速と言われているのに、子育て予算を上乗せするわけにはいかない」として、子育ては先送りの流れになった。「財源の当てなしにやれというのは、無責任のそしりを免れない」(厚労省筋)との正論は押しやられた。
今後、他の施策を含めれば兆円単位に...財源の議論が必要
岸田首相は、23年夏にまとめる「骨太の方針(経済財政運営の指針)」で子ども関連予算倍増に向けた道筋を示すと述べている。となれば、今回は10万円交付金に関する1000億円程度の話だったが、他の施策を含めれば、兆円単位の財源の議論になる。
厚労省など政府内では、医療・年金などの各公的保険財源から一定額を拠出する案などがささやかれるが、保険料の上乗せ徴収となれば個人に加え企業の負担も増える。
防衛費の財源として法人税増税が見込まれる中、子ども関連予算の財源までとなれば、企業の反発は必至で、議論の見通しは全く立っていないのが実態だ。(ジャーナリスト 白井俊郎)