パンデミックによる「行動変容」
推理小説を読むように、渡辺さんは「謎」を解いていく。
失業率とインフレ率の関係を示した「フィリップス曲線」という経済学者の常識も通用しない事態。そこで、渡辺さんが注目したのが、労働者や消費者の行動の変化、つまり「行動変容」だ。
浮かび上がってきたのが、「同期」というキーワードだ。
ウイルスとの闘いにおいて、世界中の誰もが同じ行動をとってきた。ステイホームがその最たるものだ。すべての国を同じ現象が同時に襲うという、ありえないことが起こったため、多くの人が同じ行動をとる「同期」という現象が起きた、と説明する。
通常、人々の経済行動は「同期しない」のだという。「捨てる神あれば拾う神あり」で、誰かが何かの行動をとれば、それとは真逆の行動を別の誰かがとることによって、経済は全体として安定が確保される。株式の売買も同様だ。個々人の売りが完全に同期すれば、大暴落が起こってしまう。
このほかにも、消費者は労働者でもあり、ウイルスへの「恐怖心」が広がることにより、米国では自発的な離職が進み、人手が足りないのでモノやサービスの生産が十分にできず、供給不足におちいり、インフレになった、と推測した。
これらをまとめ、パンデミックによる「3つの後遺症」が、世界インフレを起こした、と説明する。
1 消費者の行動変容(サービス消費からモノ消費にシフト)→モノの価格が上昇
2 労働者の行動変容(自発的な離職)→労働供給が減少
3 グローバル供給網に隘路が発生→部品調達ができず生産活動が停滞
これら3つが重なり、経済全体の需要と供給が釣り合わなくなり、世界インフレになった。そして、現在進行しているインフレは、新たな価格体系へと世界経済が移行する過程で発生している現象と見ている。
その移行は、時間はかかるかもしれないが、いずれは完了し、そのときインフレは止まるという。時間は数四半期なのか、数年なのか、それ以上なのかは誰にもわからないそうだ。