世界的景気後退で、「賃金と物価の好循環は生じない」
さて、今後、日本銀行が打つ手は何か。木内氏は、「誰が次期総裁に就任しても、日本銀行の執行部(事務方)が主導する形で金融政策姿勢は転換される」として、正常化開始の時期のポイントを2つ挙げる。
(1)2%の物価目標達成が視野に入ったことを受けて実施する。
(2)2%の物価目標達成は視野に入らないが、2%の物価目標の位置づけを長期目標などに修正し、金融政策運営と物価目標を切り離した後に実施する。
実際には、第1の可能性は極めて小さく、第2の形で正常化策が開始されるだろうという。なぜ、第1の可能性が小さいのか。それは「賃金と物価の好循環は生じない」からだとして、木内氏はこう結んでいる。
「今年、物価上昇率が大幅に上昇したことの影響から、来年の賃上げ率は上振れ傾向が目立つだろう。それでも、来春のベアは最大で1%強の水準ではないか。日本銀行が2%の物価目標達成と整合的な賃金上昇率の水準としているベア3%には程遠いのである。
さらに、来年には輸出環境が悪化し、また円高が進むなか、輸出企業の収益環境が一気に悪化する可能性が考えられる。そして景気全体も悪化するなか、企業の賃上げ姿勢は慎重化していき、2024年のベアは再び0%台に下がるだろう。
従って、新体制の下で日本銀行がマイナス金利解除などの正常化策を進めるには、2%の物価目標の位置づけを長期目標などのより現実的な目標へと修正し、金融政策運営と物価目標を切り離す必要がある。マイナス金利解除などの具体的な政策変更が「ハード」の政策修正であるとすれば、それを可能にする2%の物価目標の位置づけの修正は、「ソフト」の政策修正と言えるのではないか。
こうした「ソフト」の政策修正は、新体制の下で来年にも実施される可能性があるが、世界的な景気悪化、物価上昇率の大幅低下、円高進行、FRBの金融緩和観測の浮上などが来年春にも生じることが見込まれ、その場合、マイナス金利解除などの正常化策の実施は2024年半ば以降に先送りされるとみておきたい」
日本銀行の正常化は、2023年に襲ってくる可能性が非常に高い「世界的景気後退」がいつ始まるか次第というわけだ。