厚生労働省が2022年11月30日に発表した「令和2(2020)年度国民医療費の概況」によると、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年には病院への受診抑制が強く働いたことが浮き彫りになった。
国民医療費の負担割合...約40%は公費、約50%が保険料
2020年度の国民医療費は42兆9665億円と、前年度比1兆4230億円(3.2%)減少した。減少に転じたのは20016年度以来6年ぶりだった。だが、前年度比で2%を超える減少となったのは、過去にはなかった。(表1)
国民医療費が42兆円台にまで低下したのも、2016年度以来6年ぶり。新型コロナの感染拡大により、2020年度に強い受診抑制が行われたことは明らかだ。
これに伴い、人口1人当たりの国民医療費は34万600円と、前年度比1万1200円(3.2%)減少した。国民医療費同様に減少に転じたのは20016年度以来6年ぶり。前年度比で3%を超える減少となったのは、過去にはなかった。(表2)
国民医療費を財源別にみると、公費負担は16兆4991億円(構成割合38.4%)。このうち、国庫負担は11兆245億円(同25.7%)、地方負担は5兆4746億円(同12.7%)となっている。
保険料は21兆2641億円(同49.5%)。このうち、事業主負担は9兆1483億円(同21.3%)、被保険者負担は12兆1159億円(同28.2%)。
また、その他負担は5兆2033億円(同12.1%)。このうち、患者負担は4兆9516億円(同11.5%)となっている。その他負担とは、公害の健康被害の補償や健康被害救済制度による救済給付などによる。
したがって、国民医療費の負担割合はおおよそ40%が公費、50%が保険料、残り10%がその他負担となっている。
医療費を使う年齢階級...65歳未満38.5%、65歳以上61.5%
医療費を使っている年齢階級別にみると、0~14歳は2兆1056億円(構成割合4.9%)、15~44歳は5兆129億円(同11.7%)、45~64歳は9兆4165億円(同21.9%)、65歳以上は26兆4315億円(同61.5%)となっている。
なかでも、65歳未満と65歳以上の構成割合を過去10年間さかのぼってみたところ、2011年度は65歳未満が44.4%、65歳以上が55.6%だった。ところが、2020年度には65歳未満が38.5%、65歳以上が61.5%と、見事に65歳以上の医療費額が増加しており、高齢化の進展による国民医療費の増加が社会保障費の大きな負担になっていることがわかる。(表3)
なお、2020年度の人口1人当たり国民医療費をみると、65歳未満は18万3500円だったのに対して、65歳以上は73万3700円と、65歳以上が65歳未満の4倍の医療費を使っている。
2020年度の国民医療費と1人当たり医療費の多い都道府県の上位10位までをみると、国民医療費は1位が東京都、2位が大阪府、3位が愛知県と大都市を抱える都道府県が並ぶ。これは、人口が多いことで、医療費増額が膨らんでいるため、当然の結果だ。
問題は1人当たり医療費で1位が高知県、2位が鹿児島県、3位が長崎県、4位が徳島県と続く。これらの県は、高齢化の進捗率が高く、人口減少が進んでいる県だ。(表4)
国民医療費の負担割合はおおよそ40%が公費となっていることは前述した。公費のうち、12.7%は地方自治体による負担となっている。つまり、人口が減少傾向にあり、高齢化が進む地方ほど、医療費負担が高くなっているということだ。
2022年12月5日付の「医療費・介護費の『負担』問題、現役世代、高齢者世代それぞれどう思っているか? 健保連調査で明らかに」で、今後の医療費・介護費の負担のあり方について、「高齢者世代の負担が重くなることはやむを得ない」と考える人が42.3%に上ったことを取り上げた。
だが、高齢者世代の負担率見直しという点だけではなく、高齢化が進む地方における負担をどのようにしていくのかという点でも、議論の余地があるのではないだろうか。