私たちには意思があり、その意思があって動いています。でも、意思じゃないものも、私たちを動かしています。それが、モチベーションです。
では、私たちを動かしている「モチベーション」とは一体なにか? 「モチベーション」の正体を突き止めるべく、数々の一流研究機関でおこなわれた100通りの心理・行動実験を、ビジネスマンにも応用できるよう、図解でわかりやすく解説した一冊を紹介します。
「図解 モチベーション大百科」(池田貴将著)サンクチュアリ出版
ポイントは「ゴールを間近に感じさせる」こと
あるコーヒーショップで、スタンプカードを使ったこんな実験が行われました。
Aパターン
コーヒーを10杯飲むと、1杯無料になる。
Bパターン
コーヒーを12杯飲むと、1杯無料になる。
※ただしスタンプは最初から2個おしてある。
<結果>
Bパターンのスタンプカードを渡された人たちは、Aパターンのスタンプカードを渡された人よりもはるかに多く、無料の1杯を手に入れました。(出典:コロンビア大学ビジネススクールの研究)
この結果から、自分がいまゴールにどれくらい近づいているか、というフィードバックを与えると、達成度が上がることがわかります。
「出口にエサを置かれた迷路にネズミを入れる。そうしたら、ネズミはどういった行動を取るか。心理学者のクラーク・ハルが実験したところ、ネズミは出口に近づくにつれて足が速くなったそうです。ゴールに近づけば近づくほどモチベーションが上がる。その法則が私たち人間にも当てはまることを証明したのがスタンプカードの実験です」(池田さん)
「ゴールが提示されると、私たちは『ゴールまでの距離』を意識しますが、距離が同じであっても『とらえ方』によってモチベーションに変化が起こります。スタンプカードを埋めるには『残りあと10個』という客観的事実に違いはありませんが、すでに2個スタンプがおされた状態では、もう6分の1も進んでいる」という認識に変わるのです」(同)
朝一番に優先すべき仕事は...メンバーの「いい気分」を作る!
こんなケースも取り上げられています。架空の患者の症状や病歴を読み上げ、経験豊かな医者たちに診断してもらうというものです。
Aチームの医者には...事前に、なにもしない。
Bチームの医者には...事前に、医療関係の記事を読んでもらった。
Cチームの医者には...事前に、キャンディをあげた(血糖値に影響するので、食べてもらったわけではない)
<結果>
Cチームは、Aチーム、Bチームと比べ、2倍の速さで正確に診断した。(出典:ショーン・エイカーが紹介する3人の心理学者による実験)
この実験が意味するものは――。よく、ちゃんと仕事をしてもらうために、チップや手土産が有効だと知られていますよね。でも、どれくらいのものを、渡せばいいのでしょうか。仕事の難しさや大変さによっても、相場が違うのでしょうか。
でも、この実験が示すように、「別に、キャンディでもいいんだ」と知っておけば、少しは気がラクになるのではないでしょうか。いい大人がキャンディ1つでうれしくなって、仕事を素早く、正確に仕上げるのです。なんともハッピーな話です。
ほんのちょっとしたことでも、「いい気分」は仕事全体に好ましい影響を与えます。きっと本人も気づかないうちに、柔軟なモノの見方をしてくれるようになるでしょう。ですから、私たちが朝一番に優先すべき仕事は、今日の予定を確認することでも、たまった書類にサインをすることでもなく、メンバーの「いい気分」を作ることなのです。
どうすれば、自主的に進めてくれるか? どうすれば、引き受けてもらえるか? どうすれば、考えを改めてもらえるか? どうすれば、お金を出してもらえるか?......社会では、そんな答えのない問題ばかりに出くわします。
そのような、ふとした場面で、本書が示す法則に当てはめて、自分を動かし周囲に働きかけてみてください。どんどん問題解決ができるようになるはずです。(尾藤克之)