2022年12月22日付の朝日新聞朝刊1面(東京本社版)に「今年の出生数77万人台 少子化、想定より11年早く」という戦慄すべき記事が載っていた。
コロナ禍の影響もあり、今年生まれた子どもが昨年より約5%減ったのだ。ちょうど、本書「未来の年表 業界大変化」(講談社現代新書)を読んでいたので、人口減少がもたらすインパクトをいかに軟着陸させるかが、今後の日本の最重要課題だと認識した。
シリーズ累計90万部のベストセラー、「未来の年表」シリーズの最新刊は、「人口減少社会」を生き抜く処方箋を示している。
「未来の年表 業界大変化」(河合雅司著)講談社現代新書
著者の河合雅司さんは、ジャーナリスト。産経新聞社客員論説委員のほか、人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授などを務める。一貫して、日本の人口減少とその対策について問題提起している。
日本を襲う人口減と消費減の「ダブルの縮小」
評者は、「未来の年表」シリーズをすべて読んでいる。今回も、危機的な人口減少の問題が取り上げられることへの心構えはできていたが、本書のいくつかの見出しにはあらためて驚いた。
・物流 運転手不足で10億トン分の荷物が運べない
・寺院 多死社会なのに寺院消滅
・インフラ 水道料金が月1400円上がる
・鉄道 駅が電車に乗るだけの場所でなくなる
・住宅 30代が減って新築が売れなくなる
・公務員 60代の自衛官が80代を守る
・金融 IT人材80万人不足で銀行トラブル続出
どうしてこういう状況になるのか。河合さんは、「今後の日本は、実人数が減る以上に消費量が落ち込む『ダブルの縮小』に見舞われる」からだ、と説明する。
海外マーケットに期待し、「うちは影響ない」という経営者も多いが、河合さんは「人口減少の影響を受けない組織や個人は存在しない」と断言する。
そして、日本が人口減少に打ち克つには、「経済成長が止まらないようにする」。そのためには「戦略的に縮む」ことだ、と提言している。では、どうやって? 本書の第2部が、そのための「未来のトリセツ」を示している。全部で10のステップになるという。以下、見てみよう。
・ステップ1 量的モデルと決別する
量的拡大というこれまでの成功モデルと決別する必要があるという。国内マーケットが急速に縮小する社会において、パイの奪い合いをしても、誰も勝者にはなれない。人口減少社会では、投資はいずれ経営の重荷になる。一切すべきというわけではないが、今後の人口の変化に応じて、いつでも転用や撤退ができるようにすべきである。
・ステップ2 残す事業とやめる事業を選別する
追い込まれる前に、戦略性をもって、自ら組織のスリム化を図ることが大切だ。組織の体力があるうちに、「残す事業」と、「やめてしまう事業」を仕分けする。戦略的に縮むことで、人材を伸びる分野にシフトさせていけば、経済成長につなげやすくなる。
・ステップ3 製品・サービスの付加価値を高める
「残す」ことにした事業は、これまで以上に成果を出すようにしなければならない。そこで求められるのが、製品やサービスの高付加価値化だ。「薄利多売」から「厚利少売」へのシフトである。ヨーロッパの洋服や化粧品、カバンといったブランド品を製造する企業がモデルになる。
「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)はやめる
・ステップ4 無形資産投資でブランド力を高める
無形資産とはブランド、人材や技術・ノウハウ、研究開発といった目に見えない資産を指す。特許権、商標権、意匠権、著作権といった知的財産権だけでなく、データ、顧客ネットワーク、信頼力、サプライチェーンなども含まれる。「企業価値創造」の視点が求められる。
・ステップ5 1人あたりの労働生産性を向上させる
「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)が、慣例的に日本企業では続いている。無用な会議、事務手続き、出張、朝礼などだ。DX(デジタル・トランスフォーメーション)で、縦割り組織を刷新するといい。指示を伝達するだけの中間管理職は、いらなくなる。
・ステップ6 全従業員のスキルアップを図る
日本全体が「スキル不足」だったという。一部の人材や専門部署を除き、一般従業員がスキルを磨き続けることを求められる場面は少なかった。むしろ、協調性といったチームワークや人脈、人間関係を築く能力が重要視されていた。働く全員のスキルアップを図って、稼ぐ力を底上げしなければならない。
・ステップ7 年功序列の人事制度をやめる
従業員の向上心を引きだすためには、成果と能力をきちんと評価することがポイントになる。それには、人事制度そのものを見直し、年功序列をやめることだ。終身雇用が終わりを告げると、退職金という制度もなくなる。浮いた人件費は、スキルの高い新人の契約金や支度金として活用されるだろう。それは、「ジョブ型雇用」につながっていく。
・ステップ8 若者を分散させないようにする
若者が分散すると、切磋琢磨する機会が減る。若者の絶対数が減ることはいかんともしがたいので、代替策として「他流試合」を勧めている。若い従業員が参加するビジネス交流会や研修会だ。若い世代同士が交流する中から新しい発想が生まれ、ビジネスチャンスが広がる。
外国の人口変化も頭に入れた経営戦略を
・ステップ9 「多極分散」ではなく「多極集中」で商圏を維持する
全国各地に「極」となる都市をたくさん作ろう、という考え方だ。人口規模で言うと、周辺自治体を含め人口10万人程度。大半の業種が存続可能になる。この10万人商圏を生活圏とし、中核的な企業や行政機関を中心として雇用を維持しながら、海外マーケットと直接結びつくことで経済的な自立をめざす。
・ステップ10 輸出相手国の将来人口を把握する
外国の人口変化も頭に入れた経営戦略を立てる。世界人口の3分の1をサハラ砂漠以南のアフリカが占めることも知っておいた方がいいだろう。韓国・中国では少子高齢化が進み、インドが魅力的なマーケットになる。
河合さんは、人口減少対策とは「夏休みの宿題」のようなものである、と喝破している。ずるずると先延ばしにしてきた日本の社会。今が「瀬戸際」だと警告している。(渡辺淳悦)
「未来の年表 業界大変化」
河合雅司著
講談社現代新書
1012円(税込)