「この会社に入って本当によかった!」。社員にそう喜んでもらう企業は、経営陣が先頭にたって企業風土の改善に努めているものだ。
転職・就職のための情報プラットフォーム「Open Work」を運営するオープンワーク(東京都渋谷区)が2022年12月21日、「この5年間で社員評価が上がった企業ランキング」を発表した。
「社員の評価大幅アップ」という、5年間で目に見える形で成果を表わした企業はどんな魅力を持っているのだろうか。
1位は照明器具のモデュレックス...自治自立した組織体の集まり
Open Workは、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約520万人(2022年11月時点)という。Open Workでは、企業の評価を「待遇の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」など8つの指標を5段階で評価している。
今回の調査では、2017年から2022年までの5年間で、総合評価スコアが大幅に上がった、つまり、社員の評価の上昇率が高い企業をランキングした。それだけ情熱を傾けて社員への投資を盛んに行ってきた「アツイ企業」ということになる。
その結果、スコア上昇度1位は、主に照明器具を製造・販売するモデュレックス(東京都葛飾区)となった。2位に日本最大級のゴルフポータルサイトを運営するゴルフダイジェスト・オンライン(東京都品川区)、3位に世界第6位の会計事務所であるグラントソントン・インターナショナルと提携している日本の準大手監査法人、太陽有限責任監査法人(東京都港区)がランクイン。
4位にグローバル人材育成と企業研修を行うアルー(東京都千代田区)、5位にコンサルティングとアウトソーシングサービスのバーチャレクス・コンサルティング(東京都港区)という順番になった。【図表参照】
なかでも「社員の士気」「風通しの良さ」「社員の相互尊重」という評価項目のスコアが改善した企業が目立った。実際に社員クチコミでも「高いマインドや士気持つ人が多い」「コミュニケーションが取りやすい」「主体性があれば若手も手を挙げられる」といった声が見られ、心理的安全性の高い組織文化であることがうかがえる。
上位5社の社員クチコミを見ると――。
モデュレックス「企業としてのミッション、そして、製品ブランドとしてのビジョンがそれぞれ明確に定められており、WAY(ウェイ、その企業らしさの理念)に基づく組織経営・運営がなされている。社長がオーナーも兼ねている企業ではあるが、個人商店ではなく、自治自立した組織体の集まりという体制基盤が年々強固になってきている」(事務、女性)
ゴルフダイジェスト・オンライン「どの部署もとても高いマインドを持って働いている会社と言える。営業はクライアントの課題解決の存在として、自身も強い気持ちを持って働けていると思う。他の人を見ても、風通しもよく、若い人が多い会社なだけあり、活気に溢れている」(営業、男性)
太陽有限責任監査法人「自由な雰囲気があり、自身の成長を自身で考えながらキャリアを作っていく人にとっては、色々なチャンスをつかみやすく、また、後押ししてくれる文化があるため、向いている監査法人だと思う。一方、人に指示をされたことをこなしていくことで成長するタイプには、向いていない法人ではないかと感じました」(監査、男性)
アルー「知的で努力家の人が多く、何事も真面目に取り組む文化であると思います。良い意味で手堅いところがあり、勢いに任せて突き進むようなことは少なく、きちんと考えてから仕事を進めていく人が多いと思います。また、経営者も私利私欲ではなく、人の可能性を切り拓くという志を持って創業した会社であり、今も現実的な課題に向き合いつつも志はぶれていないので、ミッション・ビジョンに本気で共感できる人なら社風に合うと思います」(教育研修事業部、男性)
バーチャレクス・コンサルティング「良くも悪くもベンチャーの風土を感じる文化である。風通しが良く、新卒でも声を上げれば努力次第でチャレンジさせてもらえる環境はある。社員同士のコミュニケーションについても良好。いわゆる年功序列の会社とは全く正反対で、若手社員の活躍機会も大いに与えられている」(ITコンサルタント、男性)
「企業改革」に2パターン...1つ目は、働き方など「ハード面」の向上
ランクインした各社のスコアの変遷や投稿された社員クチコミを見ていくと、企業が取り組んだ改革は大きく2つのパターンにわかれるようだ。
パターン1は「ハード面での改善」だ。「残業時間(月間)」や「有給休暇消化率」「待遇面の満足度」など、数字にすることができ、目に見えて改善がわかるハード面の改善に着手した企業は総合評価がアップする傾向にある。
もともと業務負荷が大きい職種・業種だった企業が働き方改革に取り組んだり、人事制度を見直して報酬面の改善を進めたりした結果、総合評価の改善につながるケースが代表的だ。たとえばこんなクチコミに表れている。
モデュレックス「産休、育休はもちろんのこと、復職後の時短勤務制度や、働き方を選べる制度の導入も直近でなされたばかりで、制度自体の柔軟さがある。家族を大事にしている人が多い会社であるため、上席や同僚の理解も得られやすいアットホーム感がある。また、実力主義ということもあり、性別に関係なく、結果を出す人にはキャリアアップの道が自ずと開かれており、平等さもある」(事務、女性)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング「常に組織として良くなろうとする取り組みがある。意識や環境の醸成に関して、グローバルからもさまざまなアクティビティが課され、ローカルでも動きがあります。例えば、多様性関連で行ったり、給与の競争的な設定改定、評価制度など、変化・前進しようとしたりする動きがよく見られます」(コンサルタント、女性)
三菱地所プロパティマネジメント「近年は働き方改革やリモートワークに積極的に挑戦し、社内システム面を中心に大きく変革しており、個人個人の働きやすい環境づくりに努めている」(プロパティマネージャー、男性)
パターン2つ目は、「風通しの良さ」などソフト面の向上
パターン2は「ソフト面での改善」だ。「20代成長環境」や「社員の相互尊重」「風通しの良さ」といった、あまり数字や実績には表れにくい、ソフト面の改善に着手した企業も、総合評価がアップする傾向にあった。
コロナ禍で社員同士のコミュニケーションや人材育成面の課題にぶつかる企業が多かったが、ソフト面を改善できたことが社員からの評価向上につながった。たとえばこんなクチコミに表れている。
ゴルフダイジェスト・オンライン「中途採用が多く、色々な業界出身者が多いですが、ベンチャーのガツガツという雰囲気はあまりなく、人当たりよく優しい人が多いように思います。そのため、わからないことは質問しやすく、丁寧に回答してもらえます。また、ゴルフという共通点もあるため、ゴルフの話で盛り上がるなど、部門や上下を超えて交流があり、社内の雰囲気は比較的和やかです」(営業、女性)
フィッツコーポレーション「抱えている問題に対して柔軟に対応しようという姿勢が会社全体としてある。業務の垣根がないぶん出来る人に業務が偏る傾向がある。成長意欲の高い若い社員が多いため、転職などで人の出入りが多い。それでも、社風の影響か、業務上意見がぶつかることはあっても、『フィッツは人がいい』と多くの社員から声が上がるほど、人間関係でストレスを感じる人は少ないように感じる」(マーケティング、女性)
東急不動産「トップダウンというより、ボトムアップ。上司、先輩、同僚、同期、後輩がいい感じに機能しており、チームワークがよい。働かない人は一定数いるが、総じて働く意欲が高く、人事制度も良いほうに改善されている」(事業企画、男性)
人間関係がとてもよく、働きやすい環境にあることが社員の評価アップにつながっているようだ。もちろん、経営陣のアツイ「社員愛」がそんな企業風土を生んでいることは間違いない。
調査は2007年7月~2022年3月にOpen Workに投稿された企業のうち、一定数の投稿が集まった企業をランキング対象とした。(福田和郎)