東レの株価が2022年12月14日の東京株式市場で一時、前日終値比70円10銭(9.7%)高の793円70銭まで上昇した。
米航空大手ユナイテッドが13日(現地時間)、ボーイング社の「ボーイング787」を最大200機発注した、との発表を受け、同機種の炭素繊維複合材料(CFRP)をほぼ全量供給している東レの業績が向上する、との見方から投資家の買いが入った。
世界的に「ウィズコロナ」の局面を迎えるなか、航空機需要が高まるとの見方があり、東レにとっては中期的に追い風が続く可能性がありそうだ。
証券会社リポート「他の航空会社の動向にも注目。航空機用炭素繊維市場の拡大に引き続き期待」
ユナイテッドが発注した200機のうち、100機はオプション(確定でなく状況によってキャンセルがありうる)だ。しかし、いずれにせよ過去最大規模の発注であり、コロナ禍が特に欧米で過去のものになりつつあることを印象づけた。
SMBC日興証券は12月15日配信の「787の過去最大の受注は好材料」と題した東レのリポートで、今回の発注数について「想定以上の印象」と指摘。「他の航空会社の動向にも注目したい。航空機用炭素繊維市場の拡大に引き続き期待する」と記した。こうした市場の期待感が14日の株価上昇につながったようだ。
東レの炭素繊維は世界トップシェア。半世紀以上に及ぶ研究開発の蓄積で、東レの独壇場という状況が続いている。
炭素繊維は「軽くて強い」が最大の特徴で、省エネなどのため軽量化が求められる航空機への引き合いが強い。航空機だけでなく、自動車やスポーツ用品(ゴルフクラブやテニスラケット)、電子機器などにも幅広く使われている。
23年3月期連結決算の業績予想は下方修正...主軸の「樹脂事業」が中国で需要低迷
もっとも、東レの事業分野を2022年3月期の売上高別にみると、最も大きいのは機能化成品(樹脂事業など)40.8%で、繊維(37.5%)が続く。炭素繊維複合材料は9.7%と3番目で、環境・エンジニアリング(8.9%)、ライフサイエンス(2.3%)が続く。
さまざまな事業をバランスよく展開しているともいえるが、炭素繊維の収益全体への貢献度は高くはない。実際、11月8日に2023年3月期連結決算の業績予想を下方修正しているが、主因は樹脂事業が中国の需要低迷の影響で、収益を想定より減らす見通しであることだ。
炭素繊維複合材料はむしろ想定より収益を拡大する見込みだが、全体としては下方修正になってしまう。このあたりが12月15日以降の株価の伸び悩みに反映しているかもしれない。(ジャーナリスト 済田経夫)