投資家の悲鳴が聞こえてくるようだ――。
2022年12月20日、日本銀行が金融政策決定会合で、長期金利をゼロ%程度とする金利政策の変動幅を、従来のプラスマイナス「0.25%」から「0.5%」に修正。この発表で0.25%程度だった長期金利が一時、0.46%まで急上昇。約7年5か月ぶりの水準をつけた。
市場では「事実上の利上げ」との受けとめが広がったことから、ドル円相場はそれまで137円台前半で推移していたが、約4か月ぶりに一時1ドル=132円台にまで円高ドル安が進んだ。
一方、東京株式市場では日経平均株価が一時、800円超も急落。終値は前日比669円61銭安の2万6568円03銭で引けた。
相場の今後のゆくえを、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏とインベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェローの塚本憲弘氏がレポートを寄せた。
サプライズ効果が効きすぎた
金融政策決定会合後の記者会見で、日銀の黒田東彦総裁は、「市場機能の改善を図る」と説明した。そのうえで、金融緩和の効果をより円滑にするためのもので「利上げではない」と強調した。
短期金利をマイナス0.1%とする金融政策は維持。長期金利の変動幅の拡大について、市場金利を動きやすくすることで「金融緩和の持続性を高める」と説明した。
ところが、長期金利が急騰して「事実上の利上げ」との受けとめが市場に大きく広がった。広木隆氏は「サプライズが効きすぎた」と見ている。
「市場ではこのタイミングでの政策修正を予測する声はほとんどなかっただけに、市場は『サプライズ』による過剰反応を見せた」とコメント。米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合を終えた今週は、クリスマス休暇に入る海外投資家も多く、模様眺め気分が強かっただけに、なおさら「サプライズ」の効果が大きく出たという。
「不動の日銀が動き得る」?
日銀が長期金利の「上限」を0.25%から0.5%に引き上げたことで、長期金利(10年もの国債の利回り)は急上昇した。それにより、円高ドル安が進んだ。日経平均株価は急落だ。
これは、何を意味するのか――。ドル円相場が円高に進み、円安が是正されれば、物価高もいくらか和らぎ、景気も回復に向かう。一方、金利が上昇すれば、企業はお金を借りにくくなり、設備投資などを鈍らせる。住宅ローン金利の上昇にもつながり、景気を冷やす要因になる。企業活動や消費行動の停滞で、株価が下がる。
とはいえ、広木氏は「長期金利の上限が0.25%から0.5%に引き上げられたが、それによって日経平均株価が700円近くも急落する理論的根拠はまったくない」と指摘。「そもそも、このタイミングで緩和を縮小に向かわせて、良いことはひとつもない。政府が目指すGX(再生可能なクリーンエネルギーへの転換による経済成長戦略)も、賃上げも、ますます難しくなるだろう」としている。
さらに、今年のドル円相場が円高方向になった局面では、「日経平均株価はたいてい上昇基調にあり、ドル円相場が130円台前半にあった夏場には株価は高値を追っていた」と説明。このことから、「20日の為替水準が、それほど企業業績に悪影響を与える水準とは思えない」とみている。
つまり、20日の市場の動きはサプライズによる過剰反応で、「時間の経過とともに下げた分の修正が起こるだろう」と読んでいる。
塚本憲弘氏も、「今回、景気認識に大きな変化はない」と冷静だ。次のように指摘する。
「緩和スタンス維持に何ら変更はなく、市場機能を重んじた対応として金利の裁量を限定的に変更したものであり、持続的な動きを促すものではないと言えます。市場も水準変更を余儀なくされましたが、更なる動きに警戒というよりは変更後の水準から落ち着きどころを探る展開が予想されます」
ただ、「金融政策のかじ取りが大きく変わったとは考えませんが、『不動の日銀』も動き得る」ということは今後、念頭に置く必要があるという。
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