黒田氏は、次期総裁のために地ならし役を買って出た?
木内氏と同様に、「次期総裁に交代するに当たっての地ならしの意味もあるのでは」とするのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「日銀が長期金利変動幅を0.5%に拡大~2022年12月の政策決定会合~」のなかで、「最近の債券市場では、長期金利のレートが取引不成立によって値が付かない日が多くみられていた」として、もともと政策変更を迫られていたと指摘する。
「ここにきて、その弊害を重視した背景には、次期総裁にバトンタッチするに当たって、政策の動かしにくさを解消するために行ったと考えられる。例えば、次期総裁に交代して早々に長期金利の上限を0.50%に引き上げたとすればどうだろうか。多くの人が『新総裁はタカ派だ』と批判するだろう。それは、新総裁にとって不都合な評判だ」
ちょうど、ドル円レートのタイミングもよかった【図表】。円高に上振れていたからだ。さらに、日本銀行の決定会合の結果が発表された直後、ドル円レートは137円台前半から133円前半に一気に4円近くも円高に上昇した【再び図表】。熊野氏は、
「黒田総裁にしてみれば、円安の放任批判に対して、適切に対処したことになる。(中略)黒田総裁が、ここにきて柔軟性を示してきたことは、賞賛すべきことだ」
と、大いに評価した。
ところで、今回の日銀の政策変更で今後の物価の動きはどうなるのか。
「為替の影響は、3か月以上のタイムラグを伴って発現していく。そうなると、2023年4月以降に今回の修正は現れてくる。おそらく、4月の電気料金の改定では、3割近い料金引き上げになるだろう。
しかし、ドル円レートが円高方向に修正されていけば、電力会社に対するコストプッシュ圧力は和らぐことになる。潜在的に、電気料金を押し下げる効果が期待される。
直近の消費者物価上昇率は、コア指数で前年比3.6%まで上がっている。この伸び率は12月に4%前後まで上がる可能性がある。従来、日銀はもっと物価上昇率が高まってもよいという姿勢だったが、ここにきて姿勢を修正してきていると考えられる。
賃金上昇が十分ではない状況下で、輸入物価だけを上げることは望ましくないと、日銀は冷静に考え方を変えたのであろう」
今後、輸入物価が押し上げてきた消費者物価の上昇が緩むというわけだ。それなら、もっと早く決断してほしかったところだが......。(福田和郎)