パートタイムや有期雇用で働く人と正規社員との間には、まだ、多くの格差がある。厚生労働省が2022年11月25日に発表した「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」では、その実態が浮き彫りになっている。
1時間当たりの基本賃金「正社員と同じ」46.9%、「正社員より低い」41.3%
同調査は企業と個人の両方に対して実施されており、有効回答数は企業が1万5263事業所、個人が1万3114人となっている。
まず、企業側の回答から見ていくと、パートタイム・有期雇用労働者の雇用状況では、「パートタイム・有期雇用労働者を雇用している」企業は75.4%に上っている。
その就業形態(複数回答)は、「無期雇用パートタイム」が51.4%、「有期雇用パートタイム」が27.1%、「有期雇用フルタイム」が23.2%。このうち、非常に特徴的なのは、「有期雇用フルタイム」では「定年退職者の再雇用のため」の雇用が61.9%にも上っていることだ。
従業員が希望した場合、企業には65歳までの雇用義務が課されているが、その受け皿として定年延長ではなく、有期のフルタイムでの雇用になっている。
また、正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者の有無について、「正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる」と21.5%の企業が回答している。
同一労働同一賃金ならば、当然、パートタイムや有期雇用であっても、正社員と同じ賃金になるはずだ。
ところが、1時間当たりの基本賃金(基本給)を比べてみると、「正社員と同じ(賃金差はない)」企業の割合は46.9%と半数に満たない。「正社員より低い」企業の割合は41.3%を占めている一方で、「正社員より高い」企業も7.4%となっている。
昇給、賞与などの待遇差...企業は「求められなかったが、説明している」19.8%
賃金だけではない。人事評価・考課や定期的な昇給、賞与などの面でも大きな格差があるのが実態だ。
正社員には100%実施している場合、定期的な昇給があるのは無期雇用パートタイムで58.5%、有期雇用パートタイムで42.5%、有期雇用フルタイムで41.5%となっているが、これはあくまでも企業側の回答だ。(表1)
こうしたパートタイム・有期雇用労働者と正社員の待遇差を説明しているか否かについては、どうだったか。
調査によると、「説明をしたことはないが、パートタイム・有期雇用労働者労働者から求められれば説明をする予定である」が46.5%と最も高く、次いで「パートタイム・有期雇用労働者から求められなかったが、説明をしている」が19.8%、「説明をしたことはなく、今後も説明をする予定はない」が16.0%、「パートタイム・有期雇用労働者から求められ、説明をしている」が5.6%となっている。
つまり、説明をしていない企業が62.5%を占める結果となっている。
こうした正社員との格差は、各種の手当でも行われている。
主な手当では、通勤手当は比較的に正社員同様に支払われている。しかし、役職手当や家族手当、住宅手当については、パートタイムにはほとんど支払われていないのが実態だ。(表2)
「会社に不満・不安ある」...無期パート56.5%、有期パート56.1%、有期フルタイム69.1%
一方、企業側への調査では、「有期雇用フルタイム」で「定年退職者の再雇用のため」の雇用が61.9%にも上っていた。だが、個人に対する調査では無期雇用パートタイム、有期雇用パートタイム、有期雇用フルタイムともに、60歳以上、特に65歳以上が占める割合が多くなっている。
65歳以上の男性が占める割合は、無期雇用パートタイムで27.1%、有期雇用パートタイムでは54.6%、有期雇用フルタイムで23.1%となっている。
無期と有期のパートタイムでは65歳以上の男性がもっとも多いが、とりわけ有期のフルタイムでは60~64歳の男性が39.5%ともっとも多い。これは、65歳定年までの受け皿に使われているためだろう。(表3)
このように、パートタイムや有期のフルタイムで働く労働者でも、男性の多くはそれが主な収入源となっている。無期のパートタイムでは76.5%、有期のパートタイムでは83.0%、有期のフルタイムでは88.5%の男性が主な収入源と回答している。(表4)
会社側への調査では賃金や手当での格差が明らかになっているが、福利厚生面でも大きな格差が見られる。
たとえば、社員食堂などの利用では、正社員が100%利用できる場合の利用可能割合では、無期のパートタイムでは18.3%、有期のパートタイムでは29.5%、有期のフルタイムでは38.8%しか利用できない。
同様に、健康管理面で重要な人間ドックの補助や特にスポーツクラブの利用などの補助では、非常に低い割合となっている。(表5)
こうした格差を中心に、「会社に対して不満・不安がある」と回答したのは、無期のパートタイムでは56.5%、有期のパートタイムでは56.1%、有期のフルタイムでは69.1%といずれも50%を超える高い割合となっている。
不満・不安の内容として、「賃金が少ない」との回答は、無期のパートタイムでは67.1%、有期のパートタイムでは72.5%、有期のフルタイムでは68.9%と約7割を占めている。特に、無期のパートタイムの女性が71.5%、有期のパートタイムの男性が76.6%、女性が71.6%、有期のフルタイムの男性が71.6%と、7割を超えている。(表6)
有期のフルタイムでは90%近い男性の主な収入源になっているにもかかわらず、正社員とパートタイム・有期フルタイム労働者との格差には大きなものが残っている。
高齢者や女性の有効活用を声高らかにうたう半面、その労働条件・環境を必ずしも、有効活用できるような状況になっていないのが実態だ。