経営層も強い危機感...DXは「真のグローバルフードカンパニー」への手段
――トリドールHDでは、DX推進......つまり、デジタル技術を活用して、業務プロセスの改善を、ビジネスのあり方を、根本的に変革していこうとしているのですね。
粟田さん「はい。そこで具体的には、店舗スタッフが利用する業務システムでは『SaaS』(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を、バックオフィスの定型業務では『BPO』(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を、それぞれ活用しています(※)」
(※)SaaS=ベンダーが提供するクラウド上で動作するソフトウェアを利用すること。トリドールHDでは、自前のシステム運用をできるだけやめて、それぞれの業務に適したSaaSへと順次切り替えている。/BPO=通常の外部委託とは異なり、一連の業務プロセス、一つの部署を丸ごと外部委託すること。トリドールHDでは、コールセンター、経理、給与計算などのバックオフィス業務でBPOを活用している。
――SaaSとBPOを活用することで、どのような変革が望めるのでしょうか。
粟田さん「まず、現場が変わるでしょう。すでにSaaS利用は進んでいますが、これからさらに整備したいのは、店長の役割である店舗マネジメントの省力化です。これまで店長は、発注業務やスタッフの勤務計画(シフト作成や管理)をはじめとする店舗マネジメントに多くの時間を割かれ、本来優先すべき、お客様と向き合う時間が限られていました。この点を徐々に改善し、省力化で生まれた時間を使って、これまで以上に『人のぬくもり』を感じられる接客に充ててほしい。そうすると、お客様の『顧客体験』を高めるとともに、会社として大きく成長していけると思います」
――トリドールHDが、DXによって、ビジネスのあり方を変える点では、どのように考えていますか。
粟田さん「私たちが目指す『食の感動体験』を世界中に広めるには、店舗の出店を含めて、スピーディーで効率的な事業展開が必要です。こうした変化の激しいビジネス環境への対応を考えると、DX推進は避けて通れないことでした。私を含め経営層は、強い危機感を持っていました。
トリドールHDは現在、ひとつの業態ではなく多業態での展開を推し進めています。また、国内のみならず、海外にも積極的に打って出て、『真のグローバルフードカンパニー』となることを目標としています。これを成し遂げていく過程で、会社の規模は大きくなっていくでしょうから、会社の仕組みそのものも成長に合わせていくことが必要です」
粟田さん「この点に関しては、BPOが欠かせませんでした。社外の専門企業の知見を借りることで、トリドールHDの業容が一気に増えようとも、それにともなう労務的な管理などの対応がしやすくなるからです。現在、SaaSとBPOがうまく重なり合いながら、全社的なDXをかなり推し進めることができました。会社がこの先大きく成長しても、しっかりと適応していける手ごたえを感じています」
――DXのその先の展望としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか。
粟田さん「企業の果たすべきミッションとして、これまで以上に力を入れなくてはならないのは『持続可能な社会』の実現に向けた取り組みです。現在、企業や事業が目的とする利益の追求は、どちらかといえば、企業のエゴではなかったかという考え方から、企業の社会的責任、とりわけ『社会との共生』が求められている、と私はとらえています」
――具体的に取り組みたいことは?
粟田さん「たとえば、私たち外食産業では『食材ロス』に大きな課題意識があります。ほかに、気候変動の課題解決に向けた『温室効果ガス』排出量の削減などは、言うまでもなく、業界を問わず社会全体で取り組むべきことです。こうした社会課題の解決に向けては、DXが力強くサポートしてくれるのではないかと思います。『社会との共生』を目指す視点においてもDXを取り入れ、今後ますます真摯に取り組んでいきたいと考えています」
――トリドールHDが「真のグローバルフードカンパニー」を目指して、DXに取り組まれていることがよくわかりました。最後は、インタビューの締めくくりに、ちょっと角度を変えた質問として、粟田さんが大切にされている言葉を教えてください。
粟田さん「『念ずれば花開く』という言葉は好きですね。いまはできそうにないことでも、自分が思い続けることで、そこにたどり着くことができるのではないか、と、これまでの経営者人生で身をもって実感しています。ですので、みなさんもこの瞬間に、自分の能力を決めつけない、というのは大事だと思います。
もうひとつ付け加えると、仲間も大事でね、たくさんの仲間とともに未来は拓いていくものです。一人ではどこまでいっても非力ですが、でも、仲間が集うことで、どれだけ大きな力を発揮できることか! 仲間がいるから、一歩一歩前に進んでいけるものだと信じています。成し遂げたい夢を持ち、人に語る――その源泉ともいえる『念ずれば花開く』姿勢はこれからも大切にしたいと思っています」
――ありがとうございました。
トリドールHDのコーポレートサイト内では2022年11月11日、同社の「DX推進」の取り組み事例やニュースなどを発信していく、新たなページが立ち上がった。
今回、J-CASTニュース 会社ウォッチで掲載した、代表取締役社長 兼 CEO・粟田貴也さんインタビューのフルバージョン(テキスト・動画)、これまでのDX推進をまとめた「グラフィックレコーディング」、トリドールDXの核心に迫る早稲田大学入山章栄教授とトリドールHDの磯村康典執行役員CIO/CTOの対談が見どころだ。
さらに、DXがビジネスの在り方をアップデート、DXビジョン2028、パートナー企業インタビュー、店舗インタビュー、社員インタビューなども随時公開。DX先進企業として注目されている、トリドールHDがどのようにDX推進を進めたか、その裏側に迫る。DX関係者必見の内容をお見逃しなく。
※トリドールHDは、公益社団法人企業情報化協会主催の「2022年度IT賞」において、最高評価である「IT最優秀賞(トランスフォーメーション領域)」を受賞しました。2022年12月6日の発表。トリドールHDが推進してきたSaaS、DaaS、BPO、ゼロトラストで構築するビジネスプラットフォーム、価値の実現への明確な構想に基づいた、人、組織、技術を融合した高度な組織ケイパビリティの形成など、トランスフォーメーションへの企業姿勢が高く評価されています。
【プロフィール】
粟田 貴也(あわた・たかや)
株式会社トリドールホールディングス
代表取締役社長 兼 CEO
https://www.toridoll.com/
1961年、兵庫県生まれ。1985年、焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業。店名の由来は「将来、3店舗を経営したい」という思いから。2000年、「丸亀製麺」第一号店を開店。2006年に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場、2008年に東京証券取引所第一部(現・プライム市場)へ昇格。2016年には、持株会社体制へ移行し、株式会社トリドールホールディングスが誕生。現在、世界の国・地域で1700店以上を展開する。