円安、物価高騰、固定金利上昇...気になる2023年「住宅流通」市場の行方は?...専門家が解説(中山登志朗)

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   ロシアのウクライナ侵攻に始まり、世界的なサプライチェーンのひっ迫によって、コストプッシュ型のインフレが発生した2022年――。

   いまだ、Withコロナの生活が長期化していることを背景に、「転職なき移住」による主に若年層の郊外居住が増加し、また、カーボン・ニュートラル実現に向けての取り組みとして「ZEH-M(マンション)」の供給が急拡大するなど、住生活や住環境を巡る新たな動きが数多くあった年でもありました。

   さて、来年2023年は住宅市場にはどのような動きがあるのか。足元の状況を見ながら予測してみましょう。

  • 2023年「住宅流通」市場の行方は?
    2023年「住宅流通」市場の行方は?
  • 2023年「住宅流通」市場の行方は?

円安は当面続くとの公算大 結果的に、住宅価格も上昇は不可避?

   政府・日銀は依然として金融緩和策を継続していますから、2022年を通じて4%もの利上げを実施したアメリカとの金利差は拡大する一方でした。

   それでも、アメリカの物価上昇率は前年比で10%程度と、約3%に留まる日本よりも高いインフレ状況にあるため、2023年も金利を引き上げる可能性が高いと言われています。

   来年以降、さらに日米の政策金利差が拡大することになると、現在の円安も進むことになるので、その多くを輸入資材に依存する日本の住宅産業もコスト上昇によって物件価格を引き上げざるを得なくなります。

   ウッドショックやアイアンショックとも言われる資材価格の急激な上昇は住宅産業を直撃しています。しかも、資材の輸入は貨物船などで運搬するため、高騰した資材が国内に搬入されるのはこれからですから、国内での新築住宅価格の上昇は今後も更に続く可能性が高いと言えます。

   そうなると、ユーザーが注目するのは、より安価な準近郊のベッドタウンおよび郊外に位置する街に分譲される住宅、もしくは中古住宅ということになります。

   ところが、すでに東京都心や大阪市、名古屋市などの中心部では中古マンションの価格も新築マンションに連動して明確に上昇していますから、新築住宅価格の高騰が中古住宅の価格にも影響している状況です。

   築年の浅い物件、駅近の物件、人気住宅地にある物件などはすぐに売れてしまう状況なので、これら状況の整っている物件については、強気の価格設定が継続する可能性が高いと考えられます。購入を迷っているみなさんは、もちろん物件の個別性はあるものの、待っていても価格が下がる可能性は低いので、いずれ住宅を購入するのであれば、決断はなるべく早めにしたほうがよいでしょう。

注目の住宅ローン金利は? 住宅ローン減税は?

   日本ではご存知の通り、円安がある程度進んで消費者物価の上昇が発生していても、政策金利の低利誘導による金融緩和策を継続しています。

   これにはもちろん、いくつかの理由があります。ポイントは、下記の通り。

   (1)諸外国に比較してGDPギャップ(供給に比べて消費が弱い状況)が続いているため金利を引き上げると、モノがさらに売れなくなって、景気後退の局面に入り、インフレだけが進行する「スタグフレーション」を招きかねない。

   (2)日本は、国債残高が1000兆円超と、GDP比では先進国の中で突出して高い水準にあるため、金融引き締めで金利を上げてしまうと、利払いがかさむ。これも、景気後退要因になり得る。

   (3)金利を引き上げると、これまで超低利に誘導していた金融政策と正反対の政策となるため、金融市場が混乱し、企業業績の悪化や倒産件数の増加によって、景気を後退させる懸念がある。

   (4)金利を引き上げると、連動して住宅ローン金利(特に固定金利)も上昇し、これまで日本経済を支え続けてきた住宅産業に悪影響が及ぶ。

   (5)日本ではGDPギャップが大きく、消費が弱いため、金利を引き上げなくてもインフレ率が3%程度に留まっており、金利を引き上げるほどの物価高騰は発生していない。

   こういった理由が挙げられます。

   もちろん、金融緩和政策自体は、通常の金利政策とは「異次元」と日銀が認めていますから、このような状況を脱して、健全な景気回復軌道に乗せなければならないのですが、当面は(黒田総裁は、数年と言っています)上記の理由などによって、金融緩和策を取らざるを得ない状況が続くものと考えられます。

世界情勢の変化が、どのように金利に影響するかに注目

   このなかで、憂慮すべきは、長期金利の上昇傾向です。

   2021年末に0.045%で推移していた長期金利は、2022年初に0.1%台に上昇。その後は、0.2%前半で推移して、6月以降は0.25%超に達しました。徐々に、イールドカーブコントロールが効きにくくなっていることが明らかです。

   この間、1.3%前後で推移していた住宅ローン35年固定金利は1.6%前後に上昇、同様に5年固定金利は0.8%前後から1.1%前後へ、10年固定金利も0.8%超から1.3%前後へと上昇しています。

   この短期間での長期金利の上昇は、7月の後半以降アメリカの実質金利が低下傾向にあることから、やや落ち着きを取り戻し始めています。が、世界的な経済情勢の変化が発生すると、イールドカーブコントロールが効かなくなる状況が起き得ることを示しています。

   したがって、これから住宅ローンを活用して住宅を購入しようと検討している方は、世界情勢の変化がどのように金利に影響するのかをイメージしながら、住宅ローン商品を選択するという姿勢が求められます。

   唯一、住宅ローン減税は2023年度も2022年度と同じ枠組みで実施されることが決まっているため、住宅性能の高い認定住宅は、住宅ローン元本の上限が新築では5000万円で13年間、中古では3000万円で10年間の控除が受けられます(中古一般住宅の元本上限は2000万円)から、住宅購入に向けての安心材料と言えるでしょう。

   新築&中古住宅市場とも全般的な物価上昇の影響は避けられない以上、2023年はより早い決断が求められる局面となる可能性は高いでしょう。いずれにしても、金利動向や価格動向など情報のアップデートを心掛け、その推移を注視していただきたいと思います。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
姉妹サイト