テレ東流「弱者」の発想術...弱点をメリットに変えるには?

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   「不利な条件を強みに変える『テレ東流』逆転発想の秘密」という長いサブタイトルに引かれて手にしたのが、本書「弱者の勝利学」(方丈社)である。

   テレビ界で「最小最弱」のはずのテレビ東京が、2023年大卒就職希望先ランキングで、業界1位になったという。自分は「負け組」だと思っている人こそ、大きなチャンスがあると鼓舞している。

「弱者の勝利学」(田淵俊彦著)方丈社

   著者の田淵俊彦さんは1964年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。6年目に系列の制作会社に出向したのをきっかけに「秘境取材」に取り組む。その一方、社会派ドキュメンタリー番組を制作し、ギャラクシー賞を受賞。現在、テレビ東京制作局企画委員、プロデューサー。著書に「発達障害と少年犯罪」「秘境に学ぶ幸せのかたち」などがある。

   本書は「弱小テレビ局」「秘境」「大学という教育現場」という3つの視点から、弱者が勝つ方法について書いている。

ライバルのいない「ニッチな分野」に挑戦!

   かつては、後発で視聴率も低かったテレビ東京。そこから系列の制作会社に出た田淵さんは、「何か人と違うことをして、見返してやろう」と思った。

   テレビ東京の先輩には、ジャーナリスト・キャスターの田原総一朗さんがいたが、すでに会社を去り、田原さんが切り開いたテレビ・ドキュメンタリーというジャンルの系譜も途絶えていた。そこに目をつけたという。

   それは局内に競合ライバルがいないということであり、さらにニッチな分野だった「紀行ドキュメンタリー」である。しかも、海外モノに目をつけた。

   しかし、他局のレギュラー番組のように予算もなく、1本ずつ番組を企画して制作する単発ものを作り続けた。また、他局にライバルを設定、彼らに負けないことを目標にした。

   予算もマンパワーもない田淵さんはアイデアで勝負するしかないと考え、「初モノ」にこだわることにした。これまでテレビカメラが入ったことのない辺境にこだわり、「秘境ドキュメンタリー」という独自のジャンルを開拓した。

   30年近くかけて、100カ国を超える国々の、さまざまな秘境に行ったが、取材の方法論は、文化人類学のフィールドワークそのものだったという。そこで学んだのは、既存の常識や先入観を捨てること――つまり、「アンラーン(unlearn)」こそが、未知の問題を解決するカギになるということだった。

メリットという「宝物」は、デメリットの陰にある!

   ところで、テレビ東京が学生にウケている理由として、テレビ東京の「コンパクトなサイズ感」が、時代にフィットしてきた、と考えている。ここで、テレビ東京の6つの弱点を挙げている。

1 開局が他局より遅い
2 ネット(系列)局が最少である
3 社員数が他局より少ない
4 資産が他局より少ない
5 視聴率が他局より低い
6 放送から得る収入が他局より少ない

   これらの弱点をどうプラスに変えていったのか、個別に説明している。

   たとえば、開局は遅いが、「残りものには、福がある」と発想を転換。ニッチな分野を開拓した。「子ども相手」としか思われていなかった「アニメ」、年寄りコア層だけのものとされていた「演歌」、普通のバラエティー番組より格下と考えられていた「旅」や「グルメ」といったジャンルだ。独自の切り口を考える、クリエイティブな人材が育ったという。

   系列は6局と少ないが、6局分のCM料金だけで、全国の約7割の世帯にCMが流せるのは、スポンサーにとってのメリットになる。非常に効率的で、安上がりになるからだ。また、系列局がない33府県エリアの地方局に番組を売る、というビジネスが確立できた。

   テレビ東京には、企画を出すうえでの年功序列はないという。そうした土壌の中で、田淵さんは「秘境ドキュメンタリー」というニッチな分野の開拓が出来た、と振り返っている。

   こうしたことを踏まえ、メリットという「宝物」は、デメリットの陰に常に存在していると説く。

ヒマラヤ山岳民族から学んだ、「アウトプットとインプット」のバランスの大切さ

   本書の後半は、「弱者が勝つ」ための発想法講座、と銘打っている。実際、田淵さんはいくつかの大学で10年以上前から非常勤講師を務めている。

   そこで実践しているのが、「アウトプット←→インプット」学習法だ。学生に事前課題を与えて報告してもらう。そして、次の授業では、田淵さんから細かな考察を加えてフィードバックする。だが、これで終わりではない。さらに、グループディスカッションで考察の内容をどう思うかを討論するなど、アウトプットとインプットを繰り返すのが、田淵流だ。

   「アウトプットとインプット」のバランスの大切さを、ヒマラヤの山岳民族から学んだそうだ。

   「弱者」がアピールで勝つための実践スキルも紹介している。

   たとえば、就職活動の面接。まず、自分の「弱点」をさらけ出すのがポイントだという。面接官が知りたいのは、「あなたが自分自身の性格を的確に分析し、長所や短所を的確に把握しているかどうか」、さらに「それらをどう生かして、会社の役に立ってくれようとしているのか」である。

   自分の弱点から説き起こす人には、興味を持ち、「自分の欠点を客観的に把握している」ところからスタートすれば、そこから先の伸びしろが期待できる、と考えてもらえると説明する。

   また、リモート面接では、「すべてを大げさにする」。つまり、オーバーアクションするのがいい、と映像のプロとしてアドバイスしている。

   テレビ局と秘境、そして大学という3つの現場のことが混然一体となって書かれた不思議な本である。

   テレビ局をめざす学生だけでなく、自分が「弱者」だと思っているすべての人に勧めたい。(渡辺淳悦)

「弱者の勝利学」
田淵俊彦著
方丈社
1650円(税込)

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