武田薬品工業の株価が2022年12月9日の東京株式市場で一時、前日終値比79円(2.0%)高の4098円まで上昇し、約5か月ぶりに年初来高値を更新した。
前日にデング熱ワクチン「キューデンガ」が欧州で4歳以上を接種対象者として承認された、と発表したことで、グローバルワクチンメーカーとしての成長を投資家が期待したようだ。
WHOが挙げる「10の脅威の1つ」デング熱...世界で年間3.9億人感染、50万人入院
デング熱と武田のワクチンについて、それぞれ確認しておこう。
デング熱は蚊(か)が媒介するウイルス感染症だ。主に熱帯や亜熱帯の都市部で流行。世界全体で毎年3億9000万人が感染し、50万人が入院していると推計されている。
発熱や頭痛などの症状があり、重症化した場合に適切な治療が行われないと、死亡することがある。欧州では、流行国から帰国する渡航者の発熱の原因として、デング熱が多いとされている。
世界保健機関(WHO)は「世界人口の約半分が危険にさらされている」と指摘しており、2019年にグローバルヘルスに対する10の脅威の1つにデング熱を挙げている。
武田のワクチン「キューデンガ」は、4タイプのデングウイルスすべてに有効な「4価ワクチン」。このため、接種するとすべてのデングウイルスに対する免疫を獲得できる、といった従来にないメリットがある。
すでにインドネシアでは2022年8月に6~45歳を対象に承認され、2023年初めに発売の予定だ。中南米やアジアの数カ国で審査されており、米国でも近く審査が始まる見通し。
潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」、米国で収益伸ばす
武田は2014年に、英国に本社を置く製薬大手グラクソ・スミスクライン幹部でフランス人のクリストフ・ウェバー氏を社長に招き、世界最大市場の米国強化などのグローバル化を進めた。
2019年には6兆2000億円という日本企業最高額で、アイルランドの製薬会社シャイアーを買収し、この当時は売上高で世界トップ10入りを果たした。
現状、潰瘍性大腸炎などの消化器系疾患、遺伝性血管性浮腫などの希少疾患、血漿分画製剤(免疫疾患)、オンコロジー(がん)、ニューロサイエンス(神経精神疾患)の5領域とワクチンに注力している。
足元の業績は、潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」の収益が米国で伸びていることなどから好調で、10月に2023年3月期連結決算の業績予想の最終利益などを上方修正している。
そうした中で約10年の研究成果が実りつつあるデング熱ワクチンが、武田の収益に貢献することに投資家の注目が改めて集まっている。(ジャーナリスト 済田経夫)