東日本旅客鉄道(JR東=東京都渋谷区)がデジタル金融サービス「JRE BANK」を設立し、銀行代理業に参入する。2022年12月13日に発表した。
楽天銀行が保有する金融サービス向けのインフラを活用。JR東の金融子会社であるビューカード(東京都品川)が銀行代理業を担う。
非鉄道事業を強化...「BaaS」で銀行代理業に参入
JRE BANKの利用者は、スマートフォンのアプリやウェブサイト経由で専用口座を開設して、預金や住宅ローンといった金融サービスを利用する仕組みだ。
即時決済できるデビット機能付きのキャッシュカードを使えるようにするほか、駅構内のATM「VIEW ALTTE(ビューアルッテ)」で現金を引き出す場合、その手数料を無制限で無料とする。
さらに、利用に応じてJREポイントが貯まるなどの特典を用意。利用状況に応じて新幹線の優待や駅ビルの商業施設などで使えるなどの特典も検討する。24年春にサービスを開始する。
JRE BANKの設立の背景には、JR東日本グループが掲げる経営ビジョン「変革2027」のビジネスプラットフォームの一環として、各種サービスの連携を推進していることが挙げられる。
現在、JR東日本は少子高齢化の進展による鉄道事業の縮小を見据え、グループの事業領域を拡大。非鉄道事業を強化している。今回、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で鉄道利用が落ち込むなか、JRE BANKのサービスをきっかけに、鉄道の利用や駅ビルなどでの乗降客の買い物やJREポイントの活用などを喚起し、消費拡大などにつなげたい考えだ。
JR東の深沢祐二社長は記者会見で、「金融サービスの展開を通じて幅広い顧客との接点が生まれ、継続的なサービス提供が可能になる。口座数が増えてくれば、データを活用したサービス(開発)も考えられる」と、「JRE BANK」設立のねらいを話した。
JRE BANKは、ビューカードが楽天銀行の銀行代理業の許可を受けることで、サービスを提供する。ただ、楽天IDとは連携せず、楽天ポイントは貯まらない。すでに楽天銀行の口座を持つユーザーでも、JRE BANKの口座を開設できるという。
「BaaS」でハードルさらに低く...異業種企業の銀行参入、まだ続く?
クレジットカードや電子マネーに加えて、PayPayなどの新しいQRコード決済の登場で、キャシュレス決済の担い手は乱立している。JR東は「Suica」で先行したものの、押されぎみだ。
本格的な金融事業への参入で、Suicaやビューカードに加え、デビットカード(即時決済)にも対応することで多様な決済ニーズに応え、利便性を高めることでさらなる利用者増と接点強化を図る。
JR東日本のJRE BANKのサービスは、「BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)」の仕組みを活用するのが特徴だ。
従来、異業種企業が銀行業に参入しようとすると、銀行免許を取得し、預金や融資などのサービスを支える勘定系システムを整備する必要があった。その勘定系システムの開発だけで少なくとも数十億円ともいわれる初期費用がかかるため、参入のハードルが高かった。
「BaaS」とは、銀行が預金や融資といった金融機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で企業に提供する仕組みのこと。これにより、異業種企業は自社サービスに金融機能を容易に組み込めるようになり、従来と比べてシステム構築のコストと期間を抑えることができるようになった。
つまり、自前でシステムを用意せず、既存銀行のシステムや機能をサービスとして利用するわけだ。
「銀行参入」のハードルが下がり、金融と非金融の垣根はますます低くなりそうだ。
流通業のセブン&アイ・ホールディングスのセブン銀行やイオンのイオン銀行、楽天グループの楽天銀行、ソニーグループの金融事業の担い手であるソニーフィナンシャルグループなど、グループの中核に成長している例は少なくない。
2023年、小売りやITといった異業種企業が銀行サービスを提供する時代がやってくるかもしれない。