「ひろぎんの変」は地銀の基幹システム、クラウド化の流れ...システム投資の負担増耐えきれず 「1県1行」の再編を後押しするか?

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   異次元の低金利政策の長期化と地方経済の停滞、金融市場の環境激変などを背景に、地方銀行が再編に動き出している。その引き金になっているのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を含む、システム投資への負担だ。

   地銀の基幹(勘定系+情報系)システムは、1990年代後半以降の金融危機の時代から、収益力の低下とIT化の加速に伴うコストの負担増に耐えきれなくなり、共同化への道を歩みはじめた。

   ここ数年はDX化の流れから、ますます投資コストが膨らむ傾向にある。共同化に、より規模のメリットを求める機運が高まっている。

  • 広島銀行が「MEJAR」に合流。その背景とは(写真はイメージ)
    広島銀行が「MEJAR」に合流。その背景とは(写真はイメージ)
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広島銀行、2030年度に地銀5行の共同システムに移行

   2022年11月11日、広島銀行は「クラウド化を志向した次世代基幹系システムの構築について」を発表した。

   それによると、基幹業務を担う勘定系と情報系システムに、「クラウド」をプラットフォームとした先進的な次世代システムの構築を目指して、2030年度に、MEJAR(Most Efficient Joint Advanced Regional banking-system=最も効率的な先進的地方銀行共同システム)への参加を表明。

   これに伴い、全国の地銀グループで総資産トップのふくおかフィナンシャルグループ(FG)と実施している現行の基幹システムの共同運営(Flight21)を解消する。

   ここで、日本IBMが運用してきたFlight21について説明しておこう。Flight21は、2003年に、広島銀行と現在のふくおかFGの中核である福岡銀行が基幹システムの共同運営を始めたのがきっかけだった。

   システムの共同化はM&A(企業の合併・買収)をやりやすくする。当時は、中国・九州地方の有力地銀が共同化の道を選んだことで、将来の巨大地銀を布石と見る向きもあったほどだ。

   その後、ふくおかFGは、09年に熊本ファミリー銀行(現熊本銀行)、10年に佐賀県佐世保市の親和銀行、21年には長崎市の十八銀行(いずれも、現十八親和銀行)を経営統合。九州のほぼ半分を手に入れた。傘下の地銀はいずれもFlight21に参加している。

   一方のMEJARは2010年1月にスタートした。こちらは、コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の横浜銀行と東日本銀行(東京都)、七十七銀行(仙台市)、北陸銀行(富山市)、北海道銀行(札幌市)の5行と、NTTデータが参加して共同運用する基幹システムだ。そして、30年度に基幹システムのクラウド化を進める計画で、このタイミングに広島銀行が加わる。

   つまり、広島銀行は日本IBM(Flight21)から、NTTデータ(MEJAR)に乗り換えるわけだ。

揺れるシステム共同化の枠組み

   今回の広島銀行の「決断」を、地方銀行のあいだでは「ひろぎんショック」「ひろぎんの変」と、衝撃をもって受けとめられている。

   地銀には、10を超すシステム共同化の枠組みがある。

   それを支えるベンダーも、日本IBMやNTTデータのほか、日立製作所、富士通、日本ユニシス、NECが存在している。なかでも、日本IBM系は、NTTデータ系との二大勢力を構成する。

   たとえば日本IBMには、ふくおかFGのFlight21のほか、千葉銀行や第四北越銀行(新潟市)、中国銀行(岡山市)、武蔵野銀行(さいたま市)など10行が参加する「TSUBASAアライアンス」や三菱UFJ銀行の基幹システムをベースとする「Chance」には、めぶきフィナンシャルグループ(常陽銀行、足利銀行)や十六銀行(岐阜市)、百十四銀行(香川県高松市)、山口フィナンシャルグループ(山口県下関市)などが参加。さらには、八十二銀行(長野市)や山形銀行、阿波銀行(徳島市)、宮崎銀行などが参加する「じゅうだん会」を組織し、結束が固いとされる。

   そんな日本IBM系に、ほころびが生じたのだ。

   広島銀行がFlight21からMEJARに乗り換えた理由には、コスト削減がある。ふくおかFGが周辺地銀を巻き込んで肥大化するなか、「(両行の)バランスが崩れたこともあったのではないか」(地銀関係者)と見る向きもある。

   地銀にとって、収益環境が悪化する中でもシステム投資は進めていかなければならない最重要課題の一つではある。だが、OHR(本業の粗利益に対する経費の割合)改善のためのコスト削減もまた、「待ったなし」の状況だ。

   前出の地銀関係者は「コスト削減は必要だが、システム開発にはスピードが求められている。やらないわけにはいかないので、(広島銀行のような選択は)他人事ではない」と、頭を抱える。

福岡中央銀行、ふくおかFG傘下でデジタル化を促進

   システム費用の削減は、広島銀行に限らず、あらゆる地銀にとって優先度の高い課題だ。

   じつは、広島銀行がFlight21を抜けることを発表した同日、ふくおかFGは福岡市に本店を置く第二地方銀行(旧相互銀行)の福岡中央銀行と経営統合すると発表した。2023年10月1日に株式交換を実施して、福岡中央銀行を完全子会社化する。

   福岡中央銀行は総資産5700億円と、規模が小さい。経営基盤の強化が長年の課題で、現在、福岡銀行が14.4%を出資する筆頭株主。歴代頭取も、福岡銀行の出身者が務めている。子会社化によって、強みの中小企業向け融資をさらに伸ばすという。

   福岡中央銀行は、九州地区の第二地銀6行(福岡中央銀行と佐賀共栄銀行、長崎銀行、豊和銀行=大分市、宮崎太陽銀行、南日本銀行=鹿児島市でスタート)で共同運営するNTTデータ系の勘定系システム「BeSTAcloud」を、2019年1月から稼働している。

   子会社化に向けては、システム統合にコスト負担が大きいことを理由に、当面は「BeSTAcloud」をそのまま使う。ただ、8%台にのぼる同行のOHR改善は喫緊の課題。その解決、かつ後手に回っているデジタル化への対応で、ふくおかFGの力を借りる。

   全国の地銀では、低金利や人口減少、さらには新型コロナウイルスの感染拡大など、経営環境が厳しさを増している。多額のコストがかかるシステム開発や運営を共同化して経営基盤を強化しようという動きは、自然な流れだろう。

   システム投資はいまや、金融庁が唱える「1県1行」の再編を後押しする、かっこうの材料といえそうだ。

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