会社では出世街道から外れた「万年平社員」の50代のエンジニア男性。しかし、副業の不動産投資で才能を発揮、年収2000万円は稼ぐ。定年後も年収1000万円は楽勝だ。
ところが、最愛の妻からは「出世しない人なんて」と相手にされず、「切ない日々を送っている」という嘆きの投稿が炎上気味だ。
「2000万円も稼ぐなんて、出世に汲々としている人よりステキです」「いや、奥さんの気持ちもわかる。カネの問題ではなく、人間の器量の問題」と賛否の論争が起きている。専門家に聞いた。
男性育休取得で、妻が心配すること...「夫が出世コース」から外れる
<「年収2000万円でも、出世しないとダメ?」妻の冷淡さ嘆く夫の投稿が賛否!「出世に汲々の人よりステキ」「カネではなく人間力の問題」...専門家に聞いた(1)>の続きです。
――論争の背景には、収入があっても出世しない夫に対する妻の不満があるようです。いったい、妻は夫の仕事のうえでの「出世」、あるいは「成功」をどの程度まで望むものなのでしょうか。
川上さんが研究顧問をされている働く女性の実態の調査機関「しゅふJOB総研」で、夫の出世に関する女性の意識を調べたことがありますか。
川上敬太郎さん「男性の育休取得について調査を行った際、主婦層を中心とする女性たちに、男性が育休取得することのデメリットを尋ねたことがあります。その際、『昇進が遅れるなど夫のキャリアダウンにつながる』が2位にランクインし、37%を占めました。夫のキャリアダウンが、大きな関心ごとであることが見て取れます。
◇男性の育休取得について
男性の育休取得には圧倒的多くの88%の女性が賛成しています。男性の育休取得によるデメリットの1位に『夫が家事育児をせず、かえって妻のストレスが溜まる』が入っているのも、せっかく育休をとっても育児しないケースをデメリットとして挙げているわけで、男性に育休取得して欲しいという思いの裏返しに見えます。
ところが、デメリットの2位が『夫のキャリアダウン』であり、3位と4位にもそれぞれ、『休業期間中に夫の仕事勘が鈍る』と『休業期間中に夫の仕事スキルが落ちる』が入り、夫の仕事面でのマイナスが続きます。6位と8位にも、『夫が抜けた職場の業務が回らなくなる』と『夫がキャリアプランを描きにくくなる』と夫の昇進やキャリアアップに関する心配ばかりが入ってくるのです。【図表参照】」
「出世にも良さがある。見える景色が変わってくる」
――妻の立場からすると、夫に育休を取ってもらうととても助かるが、夫の出世に悪影響を与えるのではないか、と心配する気持ちも非常に強いのですね。逆に言うと、それだけ夫の昇進を望む妻が多いというわけですか。
川上敬太郎さん「フリーコメントにも、『昇進には必ず響くに違いない』『在宅勤務という形で復職できたのは幸いです。しかし、今後のキャリアが心配です』『それよりも、もっと稼ぐことに集中して欲しい』などの声が見られました。
これらの調査結果を見ると、女性に偏っている育児に男性がもっと携わることが求められている一方、世の夫たちは基本的に仕事で活躍する姿を期待されているのだと感じます」
――しかし、回答者の多くが、「ヒラ」社員のまま、好きな投資に生きがいを見出し、2000万円も稼ぐ投稿者の生き方に共感を寄せています。『収入が十分あれば肩書きなんかどうでもいい』『肩書きは家では役に立たない』『肩書きがものを言ったのは昭和まで』といった意見が多く聞かれました。そして、投稿者の生き方を『ステキだ』という人も多いです。
川上敬太郎さん「まず、投稿者さんご自身が現状に満足されているか否かが大事なのではないでしょうか。一方で、当然、出世には出世の良さもあるのだと思います。役職が上がると責任が重くなりますが、得られる情報は増え、給与も上がり、世間から見られる目が変わったりもします。それは、仕事においても日常生活においても、見える景色が変わることを意味します。
しかしながら、出世に翻弄されて自分を見失ってしまうようなこともあります。会社によっては、役職が上がるにつれて仕事に束縛される機会が増え、家族との時間が減ってしまうということもありえます。出世にも一長一短があるということです。
肩書きを気にする価値観の人もいれば、そういったものに縛られない投稿者さんをステキだと思う人もいるでしょう。でも、見方は人それぞれ異なります。そこに決められた正解などないのではないでしょうか。投稿者さんご自身にとって、いまの姿がありたい自分なのであれば、それが一番大切なことなのではないかと感じます」
会社では偉くなるほどストレスが減り、「いい睡眠」をとる!?
――なるほど。「出世すると見える景色が変わってくる」といえば、今年2月、役職の階段を上げれば上がるほど、生きがいを感じるようになる――こんな研究結果が発表されています。日本総合研究所研究員の小島明子さんがまとめた「東京圏で働く高学歴中高年男性の意識と生活実態に関するアンケート調査結果」がそれです。
J‐CASTニュース会社ウォッチでもこの研究を「シニア男性の再就職『出身大学の難易度』で決まる?驚きの調査...女性研究者に聞いた「プライド捨てましょう!」(2)という記事で紹介しました。
その中で面白かったのは、会社の中では偉くなればなるほどストレスが減り、睡眠をたっぷりとる人が増えること。社長、重役クラスのストレスの度合いは主任クラスの約半分。「いい睡眠」を取っている割合も1.5倍に高まります。上に行くほど責任が重くなるはずなのに、重圧を感じないのか。研究者の小島さんに聞いたときの回答は、こういうものでした。
「私も個人的には、夜も眠れないほど従業員のことを心配する経営者であってほしいと思います。しかし、現実には『いつもストレスがある』と答えた社長は3.1%しかいません。偉い人ほど仕事の裁量が大きくなり、それだけやりがいと満足感が高くなり、仕事が楽しくて仕方がないのかもしれません。夜もストレスなくたっぷり眠れるのではないかとも思います」
たしかに、平社員が見ている光景と、経営幹部たちが見ている光景はかなり違うようですね。
「出世に対する考え方やイメージは、人それぞれ」
川上敬太郎さん「回答者の中には、『自分の父親が苛烈な出世競争に疲れた姿を見ているので、夫に出世なんか望まない。一緒に働いている人がいい人ばかりで嬉しいという夫が好きです』という意見もありました。その逆に、『出世して大きな仕事を成し遂げ、仕事人としてのやりがいを見出す生き方もある』という意見もあります。
出世に対する考え方やイメージは人それぞれなのだと思います。それらは良し悪しではなく、何が正しいか、一概に決められるものでもないはずです。ただ、出世を望むにせよ、望まないにせよ、心身の健康を害してしまっては元も子もありません。
出世しないことがストレスになる人もいれば、出世することがストレスになる人もいます。それぞれの志向の違いについて、良し悪しを断じる必要はなく、個々に尊重されるべきなのだろうと思います」
――投稿者は、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩や、スヌーピーの「出されたカードで勝負する」というセリフを出すなど、出世街道を外れて我が道を行くという印象がありますね。
川上敬太郎さん「大企業の中にいながら、組織に埋没する感じではなく、ご自身の価値観を大切にされている方という印象を受けます。そのことの良し悪しを論じる必要はないと思いますが、私個人としては親しみを感じます。回答者の方々の中にも、そんな投稿者さんからにじみ出る人間味に共感し好感を持つ方たちもいらっしゃるのではないでしょうか」
年収2000万円稼いでも出世しないと妻から相手にされないと嘆く夫からの投稿について、川上さんのアドバイスも熱を帯びました――。<「年収2000万円でも、出世しないとダメ?」妻の冷淡さ嘆く夫の投稿が賛否!「出世に汲々の人よりステキ」「カネではなく人間力の問題」...専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。
(福田和郎)