「性急な増税で日本の国力が低下、防衛力も損ねてしまう」
一方、「性急な増税は返って日本の国力を低下させ、防衛力そのものも損ねてしまう」と警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「防衛費増額は規模先にありき、恒久財源確保先送りの決着か」(12月8日付)のなかで、「現在の法人実効税率は29.74%であり、法人税収を1兆円引き上げるには、実効税率を32.5%程度まで引き上げる必要が出てくる」という試算を示した。これは、約3%のアップだから、かなりの負担増だ。
そして、来年(2023年)春の統一地方選挙への影響を意識して、実施は早くても2024年度以降になるとの政治判断もなされている。ところが、その時、経済状態がどうなっているかを考えているのか、と木内氏は疑問を呈する。
「来年に景気情勢が悪化すれば、2024年度からの増税実施も先送りされる可能性が出てくる。そもそも、防衛費増額の財源について、2027年度の時点で必要とされる4兆円分のうち、歳出改革や剰余金・税外収入などで3兆円も賄うことができるのだろうか。歳出削減で賄える部分は、実際には僅かだろう」
「仮にそれが可能であるとしても、剰余金・税外収入などは一時的な財源確保手段でしかない。他方、一度積み増された防衛費が、5年後には再び減らされるとは思えない。その場合、2027年度以降については、剰余金・税外収入などでは防衛費増額分を賄い続けることができないだろう。財源議論は、2027年度以降も視野に入れて議論をしなければならない」
そして、こう結ぶのだった。
「経済や世論などに配慮して、大型増税でそれを賄うことを政府が避けることを選択すれば、結局防衛費増額分は国債発行で賄われ、将来にわたる国民負担となってしまう。それは経済の成長力に逆風となり、国力の低下がむしろ総合的な防衛力を損ねてしまう恐れも出てくるだろう」
「『防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべき』とする『国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議』の報告書に示された提言の重みを、しっかりと受け止めるべきだ」
年内の方向性を決めるなどいう急ぎ過ぎでは、防衛力増強どころか国力全体が低下すると警鐘を鳴らした。(福田和郎)