日産自動車の軽の電気自動車(EV)「サクラ」が京都府のタクシーに採用され、2022年11月16日から運行を開始した。軽EVがタクシーとなるのは全国初とみられる。航続距離(1回の充電で走行できる距離)など課題は大きいが、果たしてEVタクシーは広がるのだろうか。
環境に優しい軽EVタクシーは「需要高い」 期間限定で、1キロごと10円寄付も
日産サクラを採用したのは京都府タクシー協会に加盟するエムケイ、都タクシー、京都第一交通の3社だ。これについて、日産は「EVのパイオニアとして、EVの開発と普及に取り組んでいる日産と、地球温暖化防止の京都議定書採択の地であり、環境先進都市としてカーボンニュートラルの実現に向けて取り組む京都府と、京都府タクシー協会に加盟する3社が連携し、EV活用を通じて脱炭素社会の実現を目指すものだ」と説明している。
日産によると、京都府は小道や坂道が多いため、「軽ならではの小回り性能に優れ、環境にも優しい軽EVタクシーの需要は高く、EVならではの力強く滑らかな加速がメリットになる」という。
環境にやさしい軽EVの誕生をアピールするため、各タクシー会社と日産は、2023年2月末まで1キロごとに10円を京都府内の環境保護団体へ寄付する「ドネーションタクシー」として運行する。
さらに、各タクシー会社は京都府内の小学生が「めざせCO2ゼロチャレンジ」をテーマに描いたイラストの中から、3作品を選出。ボディーサイドに作品を描いたラッピングタクシーを各社1台ずつ走らせるという。
放充電の繰り返しが、電池の劣化早める...日産「リーフ」タクシーは普及しきれず
日産サクラは日産が三菱自動車と共同開発した軽EVとして、2022年6月に発売。日産が国内市場に初めて投入した本格的な軽EVとして人気を呼び、自動車研究者ジャーナリスト会議(RJC)が主催する22年の「RJCカーオブザイヤー」を受賞した。
話題を呼ぶ日産サクラだが、タクシーとして課題もある。それは、EVの弱点でもあるリチウムイオン電池の耐久性だ。
サクラの航続距離は満充電で180キロ(WLTCモード)だ。一般的なタクシーは東京都内で1日当たり約300キロ、年間約10万キロ走るという。
サクラがタクシーとして京都府内をどれくらい走るのかわからないが、年間でかなりの充電回数が予想される。
ということは、当然、一般家庭で用いるより充放電を繰り返すことになり、電池の劣化が早く進むだろう。充電と放電を繰り返せば、スマホと同様に、リチウムイオン電池の劣化は早まる。この点がEVタクシーの最大の弱点だ。
事実、日産が2010年に初代リーフを発売した後、東京都内や大阪府内はじめ全国でリーフをタクシーとして導入する動きが相次いだ。ところが、初代リーフのタクシーは数年程度で姿を消した。リチウムイオン電池の劣化が早く、航続距離も短くなるため、タクシーとしては不向きという判断だった。
初代リーフのタクシーは今日ではほぼ見かけなくなり、2代目の現行リーフもタクシーとしては普及していない。
軽EVとして話題を集めるサクラだが、タクシーとして数年後も京都府内で活躍しているか。全国にも普及するのか、今後の行方が注目される。(ジャーナリスト 岩城諒)