岸田文雄首相が防衛力強化に向けて、矢継ぎ早に指示を出している。
政権支持率の低下に歯止めがかからないなか、指導力をアピールする狙いだ。ただ、肝心の財源についての議論はほぼ手つかずと言っていい。政府・与党は年末までに具体策をまとめるとしているが、前途多難な状況だ。
総額43兆円の防衛費、鈴木財務相「歳出・歳入両面の工夫必要」
岸田首相は2022年11月28日、浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と首相官邸で会談した。その席で、2027年度の防衛費について、他省庁の関連予算を合わせて国内総生産(GDP)比2%とするよう指示。
12月5日には再び両大臣と会い、2027年度まで5年間の中期防衛力整備計画(中期防)における防衛費の総額を約43兆円とするよう、改めて具体的に指示した。現中期防(総額27.5兆円)と比べ、大幅な積み増しになる。
「今後5年間の財源については、歳出・歳入両面の工夫をしなければならない」
「43兆円」の宿題を突きつけられた鈴木財務相は12月6日の閣議後会見で、中期防期間中は歳出・歳入改革を徹底して、必要な財源を捻出する考えを示した。そのうえで、2027年度以降に関し「財源は安定的になることが望ましい」と述べた。増税を含め、安定財源を早期に確保する必要があると強調したものだ。
萩生田政調会長、統一地方選控え「増税論議」けん制
政府は防衛費の増額にあたり、特別会計の「剰余金」の活用などで、当座はしのぐ方針だ。
ただ、毎年の防衛予算をこれだけで賄い続けるのは無理がある。遅かれ早かれ、安定財源確保のために増税は避けられないとの立場だ。
とはいえ、鈴木氏には増税を声高に叫べない事情がある。6日の会見でも、増税について問われると「与党と相談しながら、年末に一体体的に決定すべく調整する」と述べるにとどめた。
鈴木氏が気にしているのは、自民党内の動向だ。
自民党はロシアのウクライナ侵攻を受け、防衛費の増額を岸田政権に強く迫ってきた経緯がある。だが、首相指示の形で増額が現実味を帯びると、引き換えに浮上してきた財源論に急に尻込みし始めた。
自民党の萩生田光一政調会長は6日の党会合で「(防衛費増額分の)すべてを税で賄うとか、来年から増税が始まるとの間違ったメッセージを統一地方選前に出すのは大きなマイナスだ」と述べ、財源論が増税議論に直結することを強くけん制した。
公明党を含む与党内には「防衛費をGDP比1%から2%に引き上げる以上、安定財源を確保するには増税以外に手はない」との正論もあるが、自民党内には増税をできるだけ先延ばししたい思惑が渦巻いている。
取りざたされる赤字国債の増発...財務省は警戒
自民党が警戒するのは、増税議論が自民党批判として跳ね返ってくることだ。
すでにその懸念は、現実のものになりつつある。
日本商工会議所の小林健会頭は6日の定例記者会見で、防衛費増額の財源候補とされる法人税率引き上げについて「(中小企業は)賃上げ原資が足りなくなる。国内投資を冷ましてしまう」と反発した。
法人税以外の税目についても関連業界の抵抗は避けられず、「増税はできれば避けたい」というのが自民党の本音のようだ。
財源論議が行き詰まる中、ここにきてまたぞろ浮上してきたのが、国の借金に当たる赤字国債の増発だ。萩生田氏も「2年くらいは国債でやむをえない」と容認姿勢を示している。
だが、これこそが財務省がもっとも警戒するシナリオだ。同省幹部は「安定財源を早期に明確にしないと、財源論がなし崩しにされかねない」と指摘する。
財務相の諮問機関である財政制度等審議会は11月末にまとめた建議(意見書)で、防衛費増額などについて「安易に国債発行に依存せず、安定的な財源を確保していくべき」と予防線を張った。
防衛費増額を打ち出した岸田首相は財源論をどう着地させるのか。自らの指示がいま、ブーメランとなって岸田政権に跳ね返っている。(ジャーナリスト 白井俊郎)