「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
超円安、物価高、ゼロゼロ融資終了...経営リスク高まる
2022年12月5日発売の「週刊ダイヤモンド」(2022年12月10日号)の特集は、「倒産危険度ランキング」。超円安、物価高、ゼロゼロ融資終了で経営リスクが高まっている。同誌が上場企業3935社の倒産危険度を総点検したところ、509社が倒産「危険水域」と判定されたという。
倒産危険度のワースト20位までには、事業存続に疑念があるとして監査法人に「イエローカード」を突き付けられた企業が17社あるという。ワースト1位になったのは、創薬ベンチャーの企業。ワースト2位には、インターネット広告の会社が入った。
倒産危険度の悪化度ランキングには、フリマアプリのメルカリが3位に入るという驚きの結果となった。同社の経営に何が起きているのか。
メルカリの2022年6月期の純損益は75億円の赤字だった。前期は、18年に東京証券取引所に上場してから初めて57億円の黒字を確保したものの、再び赤字に転落した。
成長に陰りが見えるのを懸念している。主力の国内メルカリ事業の流通総額は、前期比12%増の8816億円にとどまり、米国メルカリ事業ではマイナス成長となった。
株価も一時急落し、時価総額が9307億円から3131億円に大きく目減りしたため、悪化度が増した、と分析している。
◆2023年に始まる中小企業の「大選別」
コロナ対策のゼロゼロ融資については、東京商工リサーチ情報部の増田和史さんが解説している。
融資後、最長3年間は都道府県が利子補給し(実質無利子)、信用保証協会の全額保証付きで無担保、さらに最長5年の返済据え置き期間が設定されている。平時であれば融資が難しい「赤字補填」のための借入金も、コロナ禍では融資が受けられた。
とはいえ、返済義務のある借入金に変わりはない。返済据え置き期間のボリュームゾーンは3年前後で、すでに返済が始まった企業も多く、年明け以降にピークを迎えるという。
ゼロゼロ融資で膨れ上がった債務負担軽減のため、政府は「令和の徳政令」とでも言うべき、債務減免をする方針を打ち出した。
すべての企業ではなく、地域交通(旅客運送業)、宿泊・観光業、飲食業、小売業、医療・福祉業、冠婚葬祭業の6業種を自民党は想定している。そのため、2023年に中小企業の「大選別」が始まる、と警告している。
もっとも、選挙対策として倒産件数を少なくするために「徳政令」が使われるのであれば、日本経済の弱体化を後押しするだけだ、と批判的だ。
名著が武器になる
「週刊東洋経済」(2022年12月10日号)の特集は、「武器としての名著」。感染症や戦争はいまだ収束の兆しを見せず、世界は混迷のままに2023年を迎えようとしている。そんな今こそ、古典的な名著が武器になると、ブックガイドを特集している。
東京の丸善・丸の内本店の人文書売場では、社会で大事件が起きたときは、古典的な名著がよく売れるという。
コロナ禍でブームになったのが、カミュの「ペスト」だ。今なお売れ続け、125万部に到達した。「未知の感染症を前に、過去に学ぼうという意識の表れではないか」と担当者は振り返っている。
特集では、第一線の研究者や経営者を「水先案内人」に、今読むべき名著を紹介している。 まず、ロシアのプーチン大統領が政治利用するドストエフスキーについて、ロシア文学者の亀山郁夫さんが、「カラマーゾフの兄弟」からウクライナ戦争を読み解いている。
晩年のドストエフスキーは右派思想、とくに「汎スラブ主義」に立っていたという。ロシア正教のもとで東ヨーロッパのスラブ民族を統一しようという考え方を、プーチンは自らの血肉にしようとしているという。
もっとも、「今のプーチンは21世紀の現代では自己を正当化できないということだ。だから、歴史と文化の中に逃げ込んでいる」と批判している。
中国の習近平国家が魅入られているのが、中国・戦国時代の思想家「韓非子」だという。徹底した合理主義と冷徹非常な政治感覚に貫かれている。
早稲田大学教授の柿沼陽平さんによると、習主席は「韓非子」をたびたび引用しているそうだ。中国の動向を占う上で、「韓非子」が参考になると指摘している。
◆読むべき古典ブックガイド
8つのテーマごとの古典ブックガイドも参考になるだろう。
環境問題では、「沈黙の春」(レイチェル・カーソン著、新潮文庫)、「種の起源」(ダーウィン著、岩波文庫)。戦争と平和では、「ローマ帝国衰亡史」(エドワード・ギボン著、ちくま学芸文庫)。科学技術については、「新科学対話」(ガリレオ・ガリレイ著、岩波文庫)などを、京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんが選んでいる。
ちなみに、いきなり原著を読むのはハードルが高いという人に勧めているのが、インターネットラジオやYouTubeのコンテンツを視聴することだ。
男性パーソナリティー3人が世界や日本の歴史について解説する、インターネット音声配信番組「コテンラジオ」は、ビジネスパーソンの人気が高いそう。
番組制作のために読み込んできた本は、協力関係にあるバリューブックスのサイトで「参考書籍ライブラリ」として1400冊以上が公開されているので、番組から名著にたどり着くこともできる。
米国経済...景気後退から一転、バブル第2ラウンドも?
「週刊エコノミスト」(2022年12月13日号)の特集は、「論争で学ぶ 景気・物価・ドル円」。米国経済の景気後退入りの可能性は高いのか、低いのか? 日銀の政策見直しはあるのか、ないのか? などのテーマで論争している。
ここでは、「バブルは別の顔でやって来る」と題した、第一生命経済研究所首席エコノミスト、熊野英生さんの寄稿を紹介したい。
それによると、今後、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによって、23年の米国経済が景気後退入りする可能性があると思っている、としたうえで、その先、引き締めによる危機から、一転して楽観論が支配するバブル第2ラウンドに突入する可能性がある、という指摘が面白いと思った。
米国の株価は9月末にいったん底をつけて上昇基調に転じた。FRBの利上げの天井が見えたからだという。
また、日米のマネー総量の推移を見ると、コロナ禍の金融・財政の大規模な出動でトレンド線からそれぞれ大きく乖離しており、とくに「米国の経済活動は、かなりマネーがじゃぶじゃぶの上に浮かんでいると思える」と書いている。
金融引き締めを転換するのが早過ぎると、バブル再燃に向かうが、2%インフレを目指して金融引き締めを教条的に行い続けると、景気は著しく悪くなる、と熊野さんは指摘。この矛盾を常に頭に置いて、着地点を探っていかなくてはならない、としている。
焦点は米国の住宅価格だという。「今後、FRBが物価下落を促すために、住宅価格の大幅な下落を容認したとすると、資産市場に打撃が加わるだろう。ストック面での損失は間接的に金融システムにも悪影響が及ぶ」と見ている。
また、BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎さんは、「現在のインフレは各国がコロナ対策として大規模な財政・金融政策を行ったことも大きく影響したというのがコンセンサスになっていると思う」と話し、より厳しい金融引き締めと緊縮財政への転換が必要になると指摘。しかし、政府は拡張財政で物価高による国民生活への悪影響を吸収しようとしており、容易ではないようだ。
現在のインフレが供給制約やコロナ禍後の繰り越し需要、ウクライナ戦争だけが原因ではないという説明に納得した。(渡辺淳悦)