中小企業の声「お金をかけて育てても、スキルを身につけた後に転職されたら...」
規模別にみると、大企業のリスキリング取り組みが60.4%に達したのに対し、中小企業は45.8%にとどまった。
新しいデジタルツールやeラーニングの導入には、資金や人的コストが必要だから、中小企業からは「DX対応のシステム構築やソフト購入費用が高すぎる。コストに見合う成果が発揮できるか疑問」(電力制御装置製造、東京都)といった費用面の悩みや、「大企業のように経営に余裕がなく、10年後20年後を見据えた人材育成は難しい。せっかくお金と時間をかけて育成しても、スキルを身につけた後に転職されたら、と考えると二の足を踏んでしまう」(一般貨物自動車運送業、福島県)という人材面の課題も聞かれた。
業種別にみると、取り組み割合のトップ3は「広告関連」(69.2%)、「情報サービス」(67.5%)、「金融」(62.1%)だった。企業からは、「DX事業を主軸にした事業部を作り、投資を行っている」(ソフト受託開発、大阪府)、「画面共有による指導が、一番効果があると考え、システム化・クラウド化によるレベル向上を毎年進めている」(ソフト受託開発、福岡県)などの声があがった【図表4】。
一方、ワースト3の業種は、「娯楽サービス」(34.2%)、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(38.6%)、「メンテナンス・警備・検査」(39.2%)だった。企業からは、「リスキリングは必要に迫られた段階で検討。DX推進は現在考えられる以上の費用対効果が見込まれた場合に検討」(ガラス繊維、福島県)、「自社のビジネス形態に適応するDX推進方法を相談できるところが解らない」(一般機械修理業、神奈川県)など、リスキング以前にDX推進の課題がある会社もあった【再び図表4】。
帝国データバンクではこうコメントしている。
「リスキリングは目的が重要であり、業務と結びつき、改善や新たな価値創出につながる取り組みが理想といわれる。DX推進に積極的な大企業や情報サービス業などでは、新しいデジタルツールの学習、eラーニングの活用、DX関連資格の取得支援などの具体的な取り組みが進んでいる。
政府が掲げる、人への投資、労働移動の円滑化、所得の増加が進展するには、大企業だけでなく中小企業や幅広い業種でのリスキリング推進が欠かせない。人手不足の環境下では特にDXなどの専門人材が逼迫しており、外部からの人材登用は容易ではない。企業においては、在職従業員の世代や役割などを限定せず、業務変革とそれに関わるリスキリングを同時に進めていくことが重要となろう」
調査は2022年9月15日~9月30日、全国2万6494社にアンケートを行ない、1万1621社(43.9%)から有効回答を得た。そのうち、大企業は1835社(15.8%)、中小企業は9786社(84.2%)だった。(福田和郎)