公共交通に求められる「3つの価値」とは?
本書がユニークなのは、鉄道を経済的側面だけではなく、多面的にとらえていることだ。ローカル線の廃止議論と廃止反対運動を振り返り、公共交通(とりわけ鉄道)には3つの価値が求められるとしている。
1つ目は、「利便的価値」だ。利用者にとって便利な公共交通を求めるという意味で、本数・運賃・速度などが使いやすい水準にあること。
2つ目は、「事業的価値」だ。可能な限り公的資金を投入せず、運賃収入だけで維持してもらいたいという期待である。
3つ目は、「シンボル的価値」だ。単なる移動手段ととらえるだけでなく、地域の「宝」としての象徴性を期待するものだ。
この3つを実現できるのは、人口が密集した一部の大都市圏だけである。地方では、3つの価値すべてを成り立たせるのが難しい。
したがって、3つの価値のどこにどう重きを置くのか、といった議論をしていくべきだったのに、議論の主導者が誰もいなかったのが問題だ、と指摘している。
その背景には、ローカル線は鉄道会社の「内部補填」による維持が当たり前と考えられてきたことが挙げられる。また、行政も鉄道会社も住民も議論を主導しようとしなかった。
だが、黒字路線ではローカル線を支えきれないことが明らかになり、このところの見直しが浮上してきたわけだ。