東京五輪を巡る不祥事の発覚が止まりません。
東京地検による、五輪組織委員会の高橋治之元電通専務絡みの贈収賄立件に端を発し、アパレル大手のAOKIホールディングス(以下、AOKI)、出版・エンタメ大手のKADOKAWA、広告代理店の大広などから不当な賄賂を受け取っていたとして、高橋氏は4度の起訴処分を受けました。
また、AOKIの青木拡憲会長(同辞任済)やKADOKAWAの角川歴彦会長(同辞任済)はじめ複数の関係者が逮捕。さらに今度は、開催前のテストマッチを巡る広告代理店業界での談合にまで捜査の手が及び、問題は個人⇒企業⇒業界と広がる一大疑獄事件の様相を呈しています。
コンプライアンス違反に関わる企業不祥事、3つのパターン
コンプライアンス違反に関わる企業不祥事は、大きく3パターンに分類できます。
(1)「社員個人の違反行動」に起因した不祥事(以下、個人不祥事)、(2)「企業固有の組織風土」に起因した不祥事(以下、組織不祥事)、(3)「業界の習わしや業界特有の事情」に起因した不祥事(以下、業界不祥事)です。
個人不祥事の代表格は、過去にたびたび起きている金融機関での使い込み不祥事です。組織不祥事の代表格は、ここ数年製造業で相次ぐ検査不正など。業界不祥事の代表格は、過去に多発している建設業界や印刷業界での談合入札などです。
個人不祥事の場合は、不祥事が起きた「穴」を塞ぐことで、同じ手口での再発防止ははかれるでしょう。一方、組織不祥事や業界不祥事の場合、再発を防止するためには、原因と思しき組織風土や業界風土から問題点を洗い出し、その風土刷新をはかることが必要になります。しかし、組織不祥事や業界不祥事後対応では、風土刷新を志したはずが、同じような不祥事がその後も続発することが多くあります。組織風土や業界風土の刷新は、極めて難しいのです。
五輪贈収賄4件で起訴処分となっている高橋氏の件は、自身が元電通専務であるという地位を利用して、電通関係者および電通取引先を動かした不祥事。この4件に関する報道を見る限り、表面上は個人不祥事のように見えながら、実は組織不祥事であることが分かります。
一方、談合疑惑に関しては、高橋氏が関わっていたか否かについては判然としていませんが、氏の出身母体である電通が関わっていたと見られており、電通と起点とした業界不祥事であることは疑う余地はなさそうです。
一連の不祥事は昨今の「弱い日本」の象徴ではないか
このように今回の東京五輪絡みの一連の不祥事は、五輪組織員会のガバナンス不全という根本的な問題はありながらも、電通の組織風土と同社を業界トップに頂く業界風土に起因し、個人不祥事、企業不祥事、業界不祥事の3つがすべて同社を軸に絡み合った状態を形成していたと思われます。言い換えれば、稀に見るほどの風土腐敗が電通という組織を蝕んでいるとも言えそうです。
電通で思い出される不祥事は、2015年に起きた新人女子社員過労死事件です。この事件では、被害者の1か月の時間外労働が過労死ラインの80時間を大きく上回る130時間を超え、かつ、会社側が残業時間を過少申告するよう指示し、長時間労働を黙認していたことが大問題になりました。
また同時に、被害者に対する上司からのパワーハラスメント、セクシャルハラスメントがあったことも指摘され、悪しき組織風土そのものが問題視された重大事件でした。事態は社会問題化して、政府主導での働き方改革呼び掛けのきっかけともなり、同社には抜本的な組織風土変革が求められたはずでした。
この事件の折に、その組織風土を象徴するものとしてクローズアップされたのが、「電通鬼十則」と言われる同社の行動指針です。これは、同社「中興の祖」と呼ばれた第4代社長吉田秀雄氏が1951年に作ったもので、事件当時電通の社員手帳にも記載され、全社員がこれを常に頭において仕事をしていたとされています。
「十則」には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは......」と過激な表現もあり、パワハラを助長する時代錯誤なものとして、17年にこの事件を受けた社内改革で手帳から外されたのでした。
しかし、今この「十則」を読み返してみると、先の項目に加えて「周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきがある」という項目などもあります。今回の一連の不祥事において、高橋氏が「取り組んだら金づるを放さず、周囲を引きずり回した」行動と符合するものを感じさせられます。まさに、コンプライアンス不在の昭和の組織風土です。そして、電通の存在感や力に引きずり回された周囲も同じく、昭和文化に首まで浸かった悪しき古い体質の企業であるといえるでしょう。
既得権益に群がる錆びついた昭和文化が及ぼした贈収賄、そして談合。しかもこれらが、五輪というこのうえない国際的祭典の裏で繰り広げられていたという事実は、日本のビジネス見識を疑われる本当に恥ずべき不祥事であると思います。今年を振り返ると、三菱電機、日野自動車、SMBC日興証券の不祥事も世間をにぎわせました。コロナ禍により産業界の大きなパラダイムシフトが急激に進む今だからこそ、時代に取り残されたコンプライアンス不在の昭和の企業文化の悪臭は一層強く感じられるともいえます。
一連の不祥事は昨今の「弱い日本」の象徴でもあり、悪しき風習にまとわれた昭和企業の根本的改革なくして、日本の復権はないと思います。関係企業は猛省のうえ、今度こそ完全なる「昭和との決別」をと強く願うばかりです。(大関暁夫)