一連の不祥事は昨今の「弱い日本」の象徴ではないか
このように今回の東京五輪絡みの一連の不祥事は、五輪組織員会のガバナンス不全という根本的な問題はありながらも、電通の組織風土と同社を業界トップに頂く業界風土に起因し、個人不祥事、企業不祥事、業界不祥事の3つがすべて同社を軸に絡み合った状態を形成していたと思われます。言い換えれば、稀に見るほどの風土腐敗が電通という組織を蝕んでいるとも言えそうです。
電通で思い出される不祥事は、2015年に起きた新人女子社員過労死事件です。この事件では、被害者の1か月の時間外労働が過労死ラインの80時間を大きく上回る130時間を超え、かつ、会社側が残業時間を過少申告するよう指示し、長時間労働を黙認していたことが大問題になりました。
また同時に、被害者に対する上司からのパワーハラスメント、セクシャルハラスメントがあったことも指摘され、悪しき組織風土そのものが問題視された重大事件でした。事態は社会問題化して、政府主導での働き方改革呼び掛けのきっかけともなり、同社には抜本的な組織風土変革が求められたはずでした。
この事件の折に、その組織風土を象徴するものとしてクローズアップされたのが、「電通鬼十則」と言われる同社の行動指針です。これは、同社「中興の祖」と呼ばれた第4代社長吉田秀雄氏が1951年に作ったもので、事件当時電通の社員手帳にも記載され、全社員がこれを常に頭において仕事をしていたとされています。
「十則」には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは......」と過激な表現もあり、パワハラを助長する時代錯誤なものとして、17年にこの事件を受けた社内改革で手帳から外されたのでした。
しかし、今この「十則」を読み返してみると、先の項目に加えて「周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきがある」という項目などもあります。今回の一連の不祥事において、高橋氏が「取り組んだら金づるを放さず、周囲を引きずり回した」行動と符合するものを感じさせられます。まさに、コンプライアンス不在の昭和の組織風土です。そして、電通の存在感や力に引きずり回された周囲も同じく、昭和文化に首まで浸かった悪しき古い体質の企業であるといえるでしょう。
既得権益に群がる錆びついた昭和文化が及ぼした贈収賄、そして談合。しかもこれらが、五輪というこのうえない国際的祭典の裏で繰り広げられていたという事実は、日本のビジネス見識を疑われる本当に恥ずべき不祥事であると思います。今年を振り返ると、三菱電機、日野自動車、SMBC日興証券の不祥事も世間をにぎわせました。コロナ禍により産業界の大きなパラダイムシフトが急激に進む今だからこそ、時代に取り残されたコンプライアンス不在の昭和の企業文化の悪臭は一層強く感じられるともいえます。
一連の不祥事は昨今の「弱い日本」の象徴でもあり、悪しき風習にまとわれた昭和企業の根本的改革なくして、日本の復権はないと思います。関係企業は猛省のうえ、今度こそ完全なる「昭和との決別」をと強く願うばかりです。(大関暁夫)