インフレ手当を法人税控除の対象にすると...税収も増える!
一方、このインフレ手当をうまく活用して、働く人全体の「賃上げ」に結びつけるアイデアを提案するのが、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「インフレ手当による家計所得支援~民間企業の素早い対応を側面支援できるか?~」(11月21日付)の中で、消費者物価指数の高い伸び率のグラフ【図表参照】を示しながら、一部の企業のインフレ手当だけでは「残念ながらマクロ的なインパクトはまだ大きくない」と指摘した。
そのうえで、政府の支援によってインフレ手当を全体の賃上げに結びつける方法をこう提案した。
「インフレ手当に充当した一時金を特別に区分して、それに税制優遇を加える方法である。仮に、企業の申請によって、インフレ手当として支給した一時金(全額)に対して、すでにある賃上げ促進税制を拡充して、大企業向け30%、中小企業向け40%の税額控除をそのまま適用する」
熊野氏の試算は――。仮に、上限12万円(月額手当に換算して12か月各1万円)を税額控除の対象にしたとする。この場合、雇用者全体の6070万人に、年間12万円のインフレ手当が支給されると、最大で総額7.3兆円の名目雇用者報酬の増加になる。年率では、2022年度と比較して、雇用者報酬を2.5%も増やせるのだ。
このインパクトは、消費者物価上昇による負担増をほぼ帳消しできる規模になる。だが、こうした政策には必ず政策コストの問題がついて回る。賃上げ促進税制に準じて、大企業(法人税を30%控除)と中小企業(同40%)にそれぞれ税額控除すると、法人税の減収はマイナス2.7兆円にも及ぶ。
しかし、心配ご無用。熊野氏はこうソロバンをはじくのだ。
「名目雇用者報酬が7.3兆円ほど増えるとき、所得税・住民税、厚生年金保険料、そして消費段階での消費税の税収が増える(税収には厚生年金保険料も含めて考えている)。限界消費性向(所得の増加分の中から消費の増加にあてられる部分の割合)を6割にすると、筆者の計算では約2.5兆円は自然増収などで戻ってくる。ほぼ税収中立は守られる。故に、バラマキの批判は当たらない」