巨大経済圏・中国のデフレが世界のインフレを変える?
中国経済の失速が、逆に世界のインフレ傾向を変えるのではないか、と指摘するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「中国ゼロコロナ政策による混乱とチャイナリスク:経済の悪化懸念で原油価格は急落」(11月28日付)のなかで、足元の感染急拡大で中国の経済悪化が進んでおり、「10~12月期の実質GDP(国内総生産)は前期比でマイナスとなる可能性が高く、深刻な不動産不況にも陥っている中国経済は、ほぼ失速状態にある」と指摘した。
「中国の金融市場に大きな影響を与え始めており、11月28日には、香港及び中国本土市場で株価が大きく下落した。さらに、人民元の対ドルでの下落も進んでいる。海外からの投資資金が、政治、社会、経済面からの『チャイナリスク』を改めて意識し、流出している可能性が考えられる。通貨安傾向は、韓国ウォン、豪ドル、ニュージーランド・ドルなど中国経済と関係が深い国にも及んでいる」
さらに、国際商品市況にも悪影響を与えている。WTI原油先物価格が1バレル75ドル程度と、ロシアのウクライナ侵攻前の水準にまで下落した。中国経済の悪化による需要後退を予見した動きだ。
一方、中国では物価高騰のインフレに苦しむ欧米諸国とは逆に、デフレ傾向が見られるようになった。国家統計局が11月9日発表した10月分生産者物価指数(PPI)は、前年同月比マイナス1.3%と、2020年12月以来の低下となった。木内氏はこう結ぶ。
「世界第2の経済規模を持つ中国経済の悪化は、貿易の縮小、国際商品市況の下落、人民元安などを通じて、世界のインフレ傾向を次第に鎮静化させ、将来的にはデフレ的傾向にまで変えていく可能性があるのではないか。
中国の『ゼロコロナ政策』による混乱は、世界の経済、物価、金融市場の環境を大きく変えていく潜在力を持つ重要イベントである」
それはそれで、世界経済の大混乱の始まりである。(福田和郎)