「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
上場会社による監査法人の交代が急増
2022年11月28日発売の「週刊ダイヤモンド」(2022年12月3日号)の特集は、「人気資格『豹変』の舞台裏」。法改正やデジタル化、コロナ禍の影響を受け、会計士、税理士、社労士の3士業が厳しい生き残り競争に直面している現状を報告している。
金融庁や日本公認会計士協会による監査厳格化と公認会計士法改正などにより、監査法人と会計士を取り巻く環境が激変したという。
異変の1つが、監査法人に対する行政処分の増加だ。
例年、1年間で1件程度の処分だったが、今年は3件に上る。紳士服大手のコナカなど、上場企業7社を監査クライアントに持っていた仁智監査法人は今年5月、金融庁が下した行政処分が引き金となり、12月に解散する方針であることがわかったという。
もう1つの異変が、上場会社による監査法人の交代が急増していることだ。
21年7月~22年6月に228件と過去最多を更新。さらに上回る勢いで交代が起きているという。
その最大の理由が監査報酬の値上げだ。
2011年のオリンパス、15年の東芝など、監査法人が不正を看過した事件が騒がれ、「監査法人と企業のなれ合い監査」が問題視された。そこで金融庁は、いくつもの新しい監査手法を導入。不正シナリオを会計士自らが考え、その検証結果を調書にまとめる作業などが加わった。
それにより、現場ではより多くの会計士を投入しなければならず、コストが増大。その上昇分を顧客に請求せざるを得ない状況になった。値上げした監査報酬で合意できず、交代が進んだものと見られる。
「大手から中小へ」という監査法人交代への大きな流れがある。EY新日本、あずさ、トーマツ、PwCあらたの四大監査法人は22年、計140社もの上場会社の監査を減らした一方、中小監査法人が109社を増加させている。
報酬の問題だけではない。不正の兆候が見つかり、改善を申し入れても、まともに聞き入れない企業もあり、監査法人による「リスク回避」のための選別もある、と指摘している。
◆監査法人ランキングは?
最新の監査法人ランキングを掲載している。
集計可能な109社のうち、8割近い86社が前年実績を超えている。1位のみおぎ監査法人は19年9月に設立された新興だが、監査証明業務は2億9763万円で515%という驚異的な伸びを見せた。
一方、四大監査法人は、伸び率は小さくランキングでは中位だが、増収額はトーマツの29億円を筆頭に、中小監査法人の数十社に相当する増収を遂げている。
若手会計士の「監査離れ」が進む中で注目されているのが、コンサルティングやアドバイザリー業務などの「非監査証明業務」だ。非監査は、監査の厳格化とは無縁で、利益率も高い。企業からも喜ばれるので、やりがいを感じられる仕事だという。
増収率ランキングでは27位のトーマツは増収額では約122億円も上乗せし、他を圧倒した。国内監査法人ナンバーワンの実力をまざまざと見せつけた、と評価している。
◆税理士リストラ時代に?
一方、税理士の状況はどうか。中小企業を顧客に抱える「街の税理士」は、約8万人いる税理士登録者の9割を占める。月に3万~5万円の顧問契約で、記帳代行業務や税務申告などの「基本メニュー」を提供している。しかし、簿記や経理の知識がなくても決算書作成などができるクラウド型会計ソフトが発売され、彼らの仕事が浸食されつつあるという。
しかし、新型コロナウイルス感染症のまん延で、経営悪化に陥る中小企業が増え、税理士による経営相談のニーズが激増したという。税理士試験合格者数も減る傾向にあったが、22年度は受験者が増えた。
とはいえ、コロナ対策の「ゼロ・ゼロ融資」も終了し、生き残り競争が始まると見られている。同誌では、相続税・贈与税に特化したり、業界を特化したりするなどのプラスアルファを追求する動きを紹介している。
さらに、「士業序列」の逆転をめざす社労士の最新状況にもふれている。
1冊丸ごと、認知症への備え「全対策」
「週刊東洋経済」(2022年12月3日号)の特集は、「認知症全対策」。介護から予防、費用、相続まで、さまざまな対策を紹介している。
2025年には高齢者の5人に1人がなるといわれる認知症。悩み別のインデックス方式でまとめている。
まず、認知症の基本。原因となる疾患は100種類以上あるが、7割を占めるアルツハイマー型認知症など4つのタイプが9割を占める。根治はできないが、発症を遅らせることや、症状の進行を穏やかにすることはできる。
早期に発見するチェックリストが載っている。10年前の自分と比べ、変化がないか確認することを勧めている。
生活習慣を改善することで認知症の発症リスクを40%下げられるという研究が、2020年、英医学雑誌「Lancet(ランセット)」に掲載された。それによると、運動・知的活動・コミュニケーションの3つを意識すると12の認知症リスク要因のほとんどを取り除けるという。
運動では、週に2~3回、ウォーキングなどの有酸素運動や筋トレを疲れない程度に行うのがいいそうだ。知的活動では新しいことにチャレンジすることを勧めている。新しいことに取り組むと、脳の神経細胞は新たなネットワークを構築するので、認知機能は衰えにくくなる。
最新家電で手軽につくれる「DIYでスマート見守り」という記事にも注目した。
実家をスマートホーム化することで、遠方からでも安否確認やサポートを行う方法を紹介している。安否確認を行うネットワークカメラは1台3000円程度で買える。自力でやるのは難しいという場合には、セコムや東京ガスなどの高齢者見守りサービスがある。
お金や相続への影響、介護と支援の方法など、悩み別に詳しくまとめている。
「全対策」と銘打ち、1冊丸ごと、認知症への備えになっている。親への対策と自分の予防を兼ねて読んでおきたい内容だ。
国税庁は海外財産に対する情報収集を強化
「週刊エコノミスト」(2022年12月6日号)の特集は、「狭まる包囲網 税務調査」。相続税や法人税では過度な節税策に次々と手が打たれ、暗号資産などで得た所得の無申告の補足にも力を入れる、税務調査の最新情勢を追っている。
海外取引による課税逃れを封じるため、近年、国税当局は日本人が保有する海外財産に対する情報収集を強化している。その中でも「国外財産調書」「財産債務調書」「国外送金等調書」の3調書を重要視しているという。
5000万円を超える国外財産を有する人は、国外財産調書を提出しなければならないが、2020年分の提出件数は1万1331件で、本来の提出義務者はもっと多いのではないかと見られる。
未提出により加算税が加重されたケースは2020事務年度(20年7月~21年6月)で307件、申告漏れ金額は約88億円に上るという。多額のペナルティーを追徴されるケースが多発している。
所得税の確定申告書を提出する必要がある人のうち、所得金額が2000万円を超え、かつ、その年の12月31日において3億円以上の財産を有する人は、財産債務調書を提出しなければならない。今年度の税制改正で、所得にかかわらず、保有する財産の合計額が10億円以上である人も提出義務者になるとし、対象が拡大された。
これは、一部の富裕層がさまざまな節税スキームを使い、所得を圧縮し、提出義務者にならないようにしている実態が改正の背景にあったとされる。
海外送金等調書は、国外へ送金した金額または国外から送金を受けた金額が100万円を超えた場合に、金融機関が税務署に提出するものだ。国外財産の申告漏れがないようにしたいと注意を喚起している。
◆個人事業主の申告漏れ所得金額が多い業種、1位プログラマー
2020事務年度において、個人事業主の申告漏れ所得金額が多い業種として、プログラマーが1位になったという。
コロナ禍で副業が認められるようになったことが原因と考えられる。捕捉する手法として「支払調書」からの発覚が考えられる。
プログラマーのように、個人でビジネスを行う人が増えたことを背景に、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイトなど)、ネットオークションなど、新たな経済活動の分野の調査を強化する方針を国税庁は掲げている。
こうした富裕層への課税強化は歓迎すべきだが、第2部では来年10月から始まる消費税のインボイス制度導入による混乱をまとめている。
零細事業者が取引から排除される、欠陥制度であり、フリーランスや起業者を生みにくい社会を作るという指摘は、もっともだと思った。来年にかけて、大きな問題になりそうだ。(渡辺淳悦)