東北電力と中国電力、経産省に「規制料金」引き上げ申請...ほか4社続く見込み そうせざるを得ない「背に腹は代えられない」事情

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   東北電力が2022年11月24日、国が規制する家庭向け電気料金の規制料金引き上げを経済産業省に申請した。25日には中国電力も申請。値上げ幅は平均で東北電32.94%、中国電31.33%で、いずれも23年4月実施を予定する。ほかに、東京電力ホールディングス(HD)、北陸電力、四国電力、沖縄電力も引き上げ方針を示しており、来春以降、6社で大幅に値上がりすることになる。

   値上げ規模が適正か否か、国が審査するなかで、電力会社のコストカットの努力も厳しく求められることになるが、それでも値上げに動かざるを得ない「背に腹は代えられない」事情がある。

  • 電気料金は引き上げとなってしまうのか(写真はイメージ)
    電気料金は引き上げとなってしまうのか(写真はイメージ)
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石炭、液化天然ガスなどの価格上昇によるコスト増が直撃

   規制料金の値上げは、2011年の東日本大震災後の原発停止で大幅赤字となった各社が相次いで申請した12~15年以来。

   電気料金はこのところ、毎月のように上がっている。1年前に比べて、約2割高くなっているのに、改めて値上げ申請とはどういうことなのか――。それは、電気料金の仕組みが理由だ。

   家庭向け料金は2016年の電力料金全面自由化で、規制料金と自由料金の2種類になった。自由料金は各社の判断で決められるので、規制料金引き上げが決まれば歩調を合わせて値上げされることになりそうだ。

   今回の値上げ申請は国の認可が必要な規制料金で、主に3つの項目で構成されている。(1)固定価格の「基本料金」、(2)使った電気の量に応じて発生する「電力量料金」、(3)再生可能エネルギー普及に向けて上乗せされている「再エネ発電促進賦課金」――の3つだ。

   消費者目線で見ると、再生エネ普及のための(3)は別にして、(1)は契約アンペア数などにより決まっている部分で、どんなに電気を使っても変わらない。

   一方で、(2)は使用量に応じて払う。そして、ここに「燃料費調整額」という部分があり、コスト上昇分を自動的に反映する。具体的には、過去3か月間の燃料価格の平均を計算し、2か月後の電気料金に反映させるルールだ。

   この燃料調整制度に基づいて、この間、電気料金が上がっているのだ。ところが、これには「基準価格の1.5倍まで」という制限がある。

   しかも、発電に使われる石炭や液化天然ガス(LNG)などの価格は、足元で1年前の2倍超で推移している。このため、10月までに大手電力10社すべてが転嫁できる燃料費調整額の上限に達し、これ以上は自動的に値上げできないところにきたわけだ。

   このままではコスト上昇分を電力会社が負担する必要があり、収益が圧迫される。

石炭への依存度が高い電力会社は特に苦しい

   では、各社に負担する余力はどのくらいあるのか。

   大手10電力の2022年4~9月中間決算は、四国電力を除く9社が純損益で赤字に陥り、23年3月期通期も、予想を示していない東京電力HD、九州電力を除く8社が赤字を見込む。うち4社の赤字幅は過去最大となる見通しだ。

   とはいえ、各社で事情に違いがある。大きいのが発電に占める石炭火力のウェートと原子力発電の有無だ。

   石炭への依存度が高い電力会社は、特に苦しい。直近の石炭価格(豪州産スポット価格)は2021年4~6月から4倍近くに跳ね上がった。

   二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭は、脱炭素の流れの中で開発への投資が減少していたところに、ウクライナ危機が勃発。ロシア産LNGの輸入が減った欧州で石炭火力への回帰が進み、世界的に需給が逼迫し、原油やLNGを上回る急騰ぶりとなっている。

   値上げ申請した2社、予定する4社はいずれも石炭火力の依存度が高い点で共通する。

   一方、九州電力は原発4基(一時停止中の2基含む)が再稼働し、化石燃料の依存度は36%(21年度、石炭だけでは21%)、関西電力も原発の稼働で化石燃料依存度は43%(同、17%)と低いことから、相対的に石炭などの値上がりの影響が少ない。

   また、火力依存度が高い北海道電力、中部電力は経営努力でコスト増を吸収すべく、現時点で値上げ申請は予定していない。

値上げの妥当性、原価の削減余地ないか厳しく査定...役員報酬・従業員の給与カットも?

   政府はこうした電力の苦しい事情は理解している。

   「来春以降に一気に2割から3割の値上げとなる可能性もある」(岸田文雄首相)と見越し、23年1月から、電気料金の負担軽減策を盛り込んだ22年度補正予算案を国会に提出している。

   とはいえ、申請には国の厳しい審査が待っている。

   通常、4か月程度かけて値上げの妥当性を精査する。具体的には、今後3年間で予測される燃料費や、発電施設の維持・改修費といった電力供給に必要な費用(原価)に一定の利益を上乗せする「総括原価方式」と呼ばれる方法で算定する。

   そこで、まず、原発をどう扱うかが焦点になる。

   原発の再稼働を織り込めば、火力発電の燃料費がその分、少なくなり、値上げ規模を圧縮できる。岸田首相が、再稼働した実績のある原発10基に加え、23年夏以降に、東北電女川原発2号機▽中国電島根原発2号機▽東京電柏崎刈羽原発6、7号機など計7基の再稼働を目指す方針を示しているのはこのためだ。

   しかし、再稼働には立地自治体の同意が必要なほか、運転差し止めの司法判断が下された例もあるなど不確実性もあり、そうした見通しを適切に織り込むのは容易ではない。

   さらに、電力会社が算定した原価に削減余地がないかも厳しく査定される。「役員報酬カットは当然として、株主配当の見送り、さらに従業員の給与削減も検討せざるをえない」(業界関係者)との声もある。

   こうした「痛み」を覚悟してまで規制料金値上げに動かざるを得ないことは、電力会社の置かれた状況の苦しさを示している。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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