最近、「ケアタスク」という言葉を目にすることが増えたが、ご存じですか?
もともとは、介護の領域で使用されていた言葉で、特定患者にタスクが集中して他の患者に対応できないことなどを意味した。その後、解釈が拡大していくが、本書での「ケアタスク」は、生きていくうえで必要な「家事」を意味している。
「家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法」 (KC・デイビス著, 村井理子翻訳)SBクリエイティブ
片づけの本質とは?
では、生きていくうえで必要な「家事」とはなにか。本書では、料理、掃除、洗濯、食事、食器洗い、衛生管理などの一般的なタスクを挙げている。しかし、これらのケアタスクに費やされる時間、体力、スキルを分析すると、単純な作業ではないことがわかる。
たとえば、あなたが喘息を持っていたとする。すると、健康のために、ほこりが溜まらないように掃除を心がけるはずである。つまり、アレルギー予防で、喘息をコントロールすることが目的になる。そのためには、ほこりのない状態で、モノをしまったり、ペットの毛が衣類につかないようにしたりすることを心がけるはずである。
子どもの少ない家族なら、家族全員の衣類を大きなクローゼット(あるいは部屋)に入れることが多くなる。この方法により、着替えが簡単になり、洗濯物を元に戻すのも早くなる。この場所に洗濯機と乾燥機に近づけることができたら、より理想的ともいえる。
あるいは、洗濯物は本当にたたまなければいけないのか?という問題に直面したとしよう。下着、パジャマ、エクササイズ用のパンツなどはもちろんたたむ必要はない。洗濯物を分類し、バスケットに入れるだけなら、かなりストレスが軽減される。各個人用のバスケットがあったら、その中に洗濯物を入れ、その人に畳んでもらうのが手っ取り早い。
乾燥機から洗濯物を出して、ハンガーで吊しておくことが管理しやすい方法だと感じる人がいる。ハンガーを使って衣類を整理すると、すべてが見やすくなり、たたむよりも間違いなく時間を節約できる。そうではなく、少ない洗濯物を毎日洗うほうが管理しやすいと感じる人もいる。決めた日だけ洗濯をするのが好きな人もいる。結局は、人それぞれである。
このときのポイントは、自分の習慣に合わせたシステム作りをすることにあるだろう。多くの片づけ本には、「システムに自分の習慣を合わせるべき(もしくは修正すべき)」と載っている。これは、ストレスを高めるだけでよい方法とはいえない。ベストセラーの片づけ本を読んでも、片づけが上手くできないのはシステムが自分に合っていないからだ。
家事は「呪縛」ではない!
本書では、心身を消耗させる家事の呪縛から自分を守り、過ごしやすい家を維持していくための方法を、41の言葉にのせて指南している。
また、片づけのテクニックや、ノウハウを伝授する本ではない。ADHDや産後うつの当事者である著者が、ケアタスクの意味を明確にして、自分に優しく取り組めるように説いた本である。
指摘ポイントもかなり鋭い。「リサイクルに出そうと思っていた衣類が6か月以上も部屋にあるなら迷わず捨ててください。何も起きないから!」と言い放っている。または、「不要になったものを誰かにあげようと思っているなら・・・やめろ!」とド直球。誰かの必要のないものは、他の誰かにとっても必要がないことは明らかである。
「家がぐちゃぐちゃ!」...そう言われて、ドキッとするのはあなただけではない。家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がなく、そこを抜け出したいなら、自覚することが第一歩である。家事には「呪縛」がある。でも、呪縛にしばられると、自分への「気配りや心遣い」に気が回らない。この折り合いがうまくつけられないと、心身ともに疲れ切ってしまうだろう。
とはいえ、じっくりと考えている暇などないのが「家事」の実情。毎日、終わりの見えない「家事」がおそってくる。家事は呪縛などではなく、みんなが快適に過ごすためのもの。しかし、心に余裕がなければできない。コロナ禍で家族と向き合うことが増えた今、家事で悩む人は少なくない。いまこそ、自分をじっくり見つめ直してはいかが。(尾藤克之)