中国でコロナ過去最高の猛威! 再び全土ロックダウン、世界経済の危機? エコノミストが指摘...3大リスクは「不動産不況・新指導部・退廃的大学生」

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   中国で新型コロナが再び猛威を振るい始めた。上海市を中心に全土にロックダウンが続き、世界経済のサプライチェーンに打撃を与えた今年春を上回る新規感染者が出ている。

   「ゼロコロナ」政策を続ける習近平政権。そうでなくても不動産不況、若者の失業率増加...と経済が減速している中国が、再び全土にロックダウンを敷いたら、世界経済後退を加速させることになる。

   エコノミストの分析を読み解くと――。

  • チャイナリスクが世界経済の脅威に(写真はイメージ)
    チャイナリスクが世界経済の脅威に(写真はイメージ)
  • チャイナリスクが世界経済の脅威に(写真はイメージ)

「iPhone」受託生産工場で、労働者が「ゼロコロナ」に反旗

   中国政府は2022年11月24日、中国本土で23日に新たに確認された新型コロナ感染者が3万1444人となったと発表した。1日の感染者数が3万人を超えるのは初めて。これまでは上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた今年4月13日の2万9317人が過去最高だった。

   中国は厳格な行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策を続けているが、感染拡大に歯止めがかかっていない。振り返ると、4月当時は上海の感染者が大部分を占めていた。だが、現在は広東省や四川省、重慶市、北京市など、各地で感染者が増えているのが特徴だ。

   ロックダウンや移動制限の対象は約4億人にのぼり、専門家は「ロックダウンがさらに続けば、経済への打撃が長引く」と予想する。一時、中国政府が「ゼロコロナ」政策を緩めるという見方が広がったが、当分堅持する方針で、国民の不満はさらに高まりそうだ。

再び上海はロックダウンされるのか?
再び上海はロックダウンされるのか?

   ブルームバーグ(11月23日付)によると、米アップルの「iPhone」を受託生産しているフォックスコン・テクノロジー・グループの中国生産拠点(河南省鄭州市)で、数百人の従業員が警備員と衝突した、と報じられている。新型コロナの感染防止策として厳しい制限措置がほぼ1か月続いており、緊張が高まっていた。

   こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン版(11月22日付)「NYダウ反落45ドル安 中国のコロナ感染拡大を警戒」という記事に付くThink欄に「ひと口解説コーナー」では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏氏が、

「大きな政治イベントである共産党大会を終えれば、中国の『ゼロコロナ』政策が緩和されて、経済活動の正常化が進みやすくなり、世界経済全体にもポジティブではないか。そうした楽観論を否定するニュースが相次いでいる」

と指摘しながら、こう疑問を投げかけた。

「人民日報は一律のコロナ対策は避けるべきとしており、それに沿って全面的ではない部分的なロックダウン(都市封鎖)にとどめる動きになっているものの、各地の現場では混乱が生じているようである。
そもそも論を言うと、医療体制が脆弱であるにもかかわらず感染者数が増えやすい冬場に、中国がコロナ規制を大幅緩和するというのは、なかなか起こりにくいシナリオである。規制の緩和が加速するのは2023年春以降とみるべきだろう」

中国が「ウィズコロナ」に転換したら、9万人の死者が出る?

北京の天安門広場
北京の天安門広場

   仮に、中国が「ウィズコロナ」政策に転換したら、9万人の死者が出る、という猛烈な数字を挙げるのは、ニッセイ基礎研究所上席研究員の三尾幸吉郎氏だ。

   三尾氏はリポート「中国経済の見通し 2022年は前年比3.4%増、23年は同5.3%増、24年は同5.2%増と予想」(11月25日付)の中で、中国だけが「ゼロコロナ」を堅持して「鎖国状態」に陥ることをこう懸念する。

「いまウィズコロナ政策に移行すれば、インフルエンザ並みに抑えられたとしても9万人近い死亡者を出すことになりかねない。欧米先進国では数々の大波(日本では第8波)を経験し、死亡者急増という修羅場を乗り越えて、防疫と経済活動のバランスが大切との世論が形成されて、ようやくウィズコロナ政策に移行する心構えができた。
しかし、まだ第2波の中国ではそうした修羅場を乗り越えた経験が少なく、そうした世論も形成されていない。またゼロコロナ政策を堅持したことで、欧米先進国よりも遥かに少ない死亡者数に抑制できたという誇りや、中国経済を世界に先駆けてV字回復させたという自信が邪魔する面もある」

   しかし、習近平新指導部が発足した今、このままゼロコロナ政策を堅持するのか、それともウィズコロナ政策へ移行するのか。三尾氏はこう予測する。

「2022年7月に香港の新たな行政長官に就任した李家超氏が9月下旬に取り組み始めたコロナ規制の段階的緩和が試金石となりそうだ。また、世界保健機関(WHO)がパンミックの収束宣言に踏み込めば、それが中国にとってはウィズコロナ政策へ軌道修正するキッカケとなるかもしれない。経済成長率を大きく左右するだけに、その動向を注視したい」

不動産バブル崩壊、銀行が抱える途方もない不良債権

感染が拡大する北京市にある北京西駅
感染が拡大する北京市にある北京西駅

   もう1つ、中国経済を大きく揺るがせているのが、不動産バブルの崩壊だ。大和総研主席研究員の齋藤尚登氏は、リポート「中国経済見通し:上海都市封鎖の二の舞か?」(11月22日付)の中で、大きく落ち込んだ住宅新規着工面積と住宅販売金額のグラフ【図表1参照】を示しながら、金融機関が抱える途方もない額の不良債権をこう説明する。

(図表1)住宅新規着工面積と住宅販売金額の推移(大和総研の作成)
(図表1)住宅新規着工面積と住宅販売金額の推移(大和総研の作成)
「問題は単なる不動産市場の低迷にとどまらず、金融リスクの増大が懸念されている。(中略)施工面積の10%が問題物件と仮定すると、6.3兆元(約126兆円)分、頭金が3割として関連する住宅ローンは4.4兆元(約88兆円)となり、銀行貸出全体の2%程度を占める計算である。
一方、2022年6月末の銀行全体の貸倒引当金は6.0兆元(約120兆円)、2021年の純利益は2.2兆元(約44兆円)である。合計8.2兆元(約164兆円)を不良債権処理の原資とすると、問題物件が全体の10%にとどまれば、焦げ付く可能性のある住宅ローン(4.4兆元)は処理可能である」

   事態が深刻なのは、不良債権となる物件がどのくらいあるのか、見当がつかないことだ。齋藤氏はこう懸念する。

「しかし、これが全体の20%となれば、貸倒引当金と2021年の期間利益がすべて吹き飛ぶ計算となる。中国政府にしても看過できない問題といえる」

上海封鎖で「悪評」買った人物に、経済を任せられるか?

経済の最先端、深セン市の夜景
経済の最先端、深セン市の夜景

   今後の習近平指導部にこうした諸問題を的確に処理する能力があるかどうかも問題の1つだ。

   リコー経済社会研究所主任研究員の武重直人氏は、リポート「第3期習近平体制、中国共産党幹部人事の読み方=ライバル排除、側近重用で思惑露わに=」(11月11日付)の中で、今年10月の共産党大会で誕生した習近平指導部(中央政治局常務委員)の人脈を分析し【図表2参照】、経済、外交、軍事の面で方向性を探った。

(図表2)新旧の中央政治局常務委員(リコー経済社会研究所の作成)
(図表2)新旧の中央政治局常務委員(リコー経済社会研究所の作成)

   習近平指導部はライバルだった中国共産党青年団(共青団)系の有力者がことごとく排除され、習氏の部下や側近だけで固められ、実務能力に疑問符がつく。たとえば、「経済」の面ではこんな案配だという【再び図表2参照】。

「経済関連の人事で過去と大きく異なったのは、序列第2位の李強氏である。李氏は2023年3月に経済の舵取り役である首相になるとみられている。これまで首相は副首相経験者から選ばれるのが慣例だったが、同氏にはその経験がなく、中央での実績もない」
「習氏は経験でなく自分への忠誠度を基準に李氏を選んだとみられる。李氏は習氏が浙江省トップを務めた時期に秘書長として仕えて信頼関係を築いた。習氏の目の動きで要求が分かるほどの関係だったと言われる。
習氏が党内で地位を高めると李氏も出世を重ね、江蘇省や上海市のトップに就いた。その上海で李氏は、習氏の意を汲んでコロナ対策の都市封鎖を徹底した。市民からは不評を買い、常務委員入りは遠のいたとみられたが、ふたを開けてみれば習氏に次ぐ序列に就いた」
「こうした両氏の関係性が新政権内でも再現されるとすれば、経済政策には習氏の意向がストレートに反映されることになる。ゼロコロナ政策の徹底や共同富裕(IT、不動産、教育産業への規制)などの特徴は、従来よりも際立っていく可能性がある」

「勤勉さ」失い、「退廃」身に着けた中国の大学生

「バイラン」と共産党から批判される「退廃的」な大学生が増えている(写真は中国国旗)
「バイラン」と共産党から批判される「退廃的」な大学生が増えている(写真は中国国旗)

   さらに将来、中国経済減速の大きな要因になるのは若年労働者の減少だ。特に、若い世代に中国経済を支えてきた「勤勉さ」が失われていることが深刻な問題になっていると指摘するのは、日本総合研究所上席主任研究員の三浦有史氏だ。

   三浦氏は、リポート「中国の若年失業率上昇の深層―顕在化する『勤勉さ』を巡るすれ違い―」(11月11日付)の中で、非常に興味深い意識調査のグラフを示している。それは、子どもに「勤勉さ」を求めるかどうか、中国人の親と日本人の親の価値観を比較したグラフだ【図表3参照】。

(図表3)「勤勉」をめぐる中国人と日本人の価値観の違い(日本総合研究所の作成)
(図表3)「勤勉」をめぐる中国人と日本人の価値観の違い(日本総合研究所の作成)

   これを見ると、「子どもが身につける素養として勤勉さが重要である」と考える中国人は7割以上いるが、日本人は2割台だ。また、「成功を左右するのが勤勉さである」と考える中国人は5割近くいるが、日本人は1~2割台しかいない。それほど「勤勉さ」は中国人にとって社会、経済、政治を支える重要な価値観だったのだ。

   ところが、三浦氏によると、中国の大学生は「一人っ子」政策で親から大事に育てられてきたこともあり、「勤勉さ」が失われ、2022年前半は「退廃的」「腐らせる」を意味する「擺爛」(バイラン)が若者を表わす流行語となった、と指摘する。

   「退廃的」大学生は経済を支えるブルーカラーを「社会の底辺」と嫌い、国有企業や公務員のホワイトカラーを目指したがる。しかし、国有企業や公務員の競争率は高く、大学生の失業率は2割以上に達する。

   さらに、最近は「横たわり」や「内巻」という言葉も生まれた。これらは、次のように説明されている。

「『横たわり』とは物欲が乏しく、競争、勤労、結婚、出産に消極的になること、そして、『内巻』とは、皆が競争を勝ち抜くために努力しているため、努力の価値が下がり、誰もが消耗することを意味する。
『横たわり』や『内巻』は、今後さらに広がると見込まれる。智聯招聘(中国最大手の人材会社)が2022年の大学卒業予定者に進路を聞いたところ、『就業』と回答したのは50.4%に過ぎず、『自由業』が18.6%、『就業延期』が15.6%、「内外の大学院進学」が9.5%、『起業』が1.3%であった」
人民元
人民元

   習近平政権は、中国経済の将来を担う若者たちが「厭世的」になることを警戒。そして、「擺爛」は常に勤勉で責任感が強いという中国の伝統的な美徳に反するという「『反擺爛』宣伝」を強化しているが、打つ手なし、の状態だ。

   三浦氏はこう結んでいる。

「彼らは、一人っ子という恵まれた環境で育ったため、ストレスに弱く、『勤勉さ』を放棄するのではなく、『勤勉さ』を備えているがゆえに、不透明感が高まる社会に対する希望を失い、茫然自失としているに過ぎない。にもかかわらず、共産党は、困難はいつの時代でもあり、我々はそれを乗り越えてきたと、右肩上がりの時代の成功体験を引き合いに『勤勉さ』を求める。このすれ違いが解消される見込みはほとんどない」

(福田和郎)

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