「勤勉さ」失い、「退廃」身に着けた中国の大学生
さらに将来、中国経済減速の大きな要因になるのは若年労働者の減少だ。特に、若い世代に中国経済を支えてきた「勤勉さ」が失われていることが深刻な問題になっていると指摘するのは、日本総合研究所上席主任研究員の三浦有史氏だ。
三浦氏は、リポート「中国の若年失業率上昇の深層―顕在化する『勤勉さ』を巡るすれ違い―」(11月11日付)の中で、非常に興味深い意識調査のグラフを示している。それは、子どもに「勤勉さ」を求めるかどうか、中国人の親と日本人の親の価値観を比較したグラフだ【図表3参照】。
これを見ると、「子どもが身につける素養として勤勉さが重要である」と考える中国人は7割以上いるが、日本人は2割台だ。また、「成功を左右するのが勤勉さである」と考える中国人は5割近くいるが、日本人は1~2割台しかいない。それほど「勤勉さ」は中国人にとって社会、経済、政治を支える重要な価値観だったのだ。
ところが、三浦氏によると、中国の大学生は「一人っ子」政策で親から大事に育てられてきたこともあり、「勤勉さ」が失われ、2022年前半は「退廃的」「腐らせる」を意味する「擺爛」(バイラン)が若者を表わす流行語となった、と指摘する。
「退廃的」大学生は経済を支えるブルーカラーを「社会の底辺」と嫌い、国有企業や公務員のホワイトカラーを目指したがる。しかし、国有企業や公務員の競争率は高く、大学生の失業率は2割以上に達する。
さらに、最近は「横たわり」や「内巻」という言葉も生まれた。これらは、次のように説明されている。
「『横たわり』とは物欲が乏しく、競争、勤労、結婚、出産に消極的になること、そして、『内巻』とは、皆が競争を勝ち抜くために努力しているため、努力の価値が下がり、誰もが消耗することを意味する。
『横たわり』や『内巻』は、今後さらに広がると見込まれる。智聯招聘(中国最大手の人材会社)が2022年の大学卒業予定者に進路を聞いたところ、『就業』と回答したのは50.4%に過ぎず、『自由業』が18.6%、『就業延期』が15.6%、「内外の大学院進学」が9.5%、『起業』が1.3%であった」
習近平政権は、中国経済の将来を担う若者たちが「厭世的」になることを警戒。そして、「擺爛」は常に勤勉で責任感が強いという中国の伝統的な美徳に反するという「『反擺爛』宣伝」を強化しているが、打つ手なし、の状態だ。
三浦氏はこう結んでいる。
「彼らは、一人っ子という恵まれた環境で育ったため、ストレスに弱く、『勤勉さ』を放棄するのではなく、『勤勉さ』を備えているがゆえに、不透明感が高まる社会に対する希望を失い、茫然自失としているに過ぎない。にもかかわらず、共産党は、困難はいつの時代でもあり、我々はそれを乗り越えてきたと、右肩上がりの時代の成功体験を引き合いに『勤勉さ』を求める。このすれ違いが解消される見込みはほとんどない」
(福田和郎)