日頃から顔の見える関係をつくり、有事の際は「つながれる」備えを
室﨑さんの挙げた課題を軸として、パネルディスカッションが進行。パネリストの武田真一さん(たけだ・しんいち=宮城教育大学 特任教授/公益社団法人3.11メモリアルネットワーク代表)は、東日本大震災における被災地の現地視察、語り部の活動サポートなど、自身が力を入れている「震災伝承」の取り組みを紹介した。
「津波防災を日常的に意識する環境になり、次なる災害への備えとして、防災教育や伝承活動への関心が高まりました。ただし、これで本当に備えの意識と体制はできたか。この問いかけは残っています」(武田さん)
また、大牟田智佐子さん(おおむた・さちこ=毎日放送 報道情報局/兵庫県立大学 客員研究員)は、テレビやラジオの報道記者経験、そして、大学院での災害報道についての研究内容を取り上げた。
「日常生活の中に防災の話を入れるなど、日常とつながっていることが大事です。とくにラジオの場合、こうしたことが自然と伝えられる(のはメリット)」
「(災害に関する報道のうち)生活情報の発信は、被災者が生きるためのライフライン情報として重要。私は『共感放送』と呼んでいますが、こうした寄り添う報道の姿勢が今後も大切だと考えています」(大牟田さん)
損保協会・常務理事の伊豆原孝さんは、同協会のさまざまな取り組みを紹介した。なかでも注力してきたのは、防災取り組みにおける、産官学民連携だ。
「2022年7月、政府が発表した『国土形成計画』の中間とりまとめでは、巨大災害リスクを含めた、国土課題に立ち向かっていくために、官民共創や分野の垣根を超えることがキーワードとして提示されています。災害時に連携を図るには、国のみならず、地域単位の連携が重要。(そのためには)縦割り(の関係)を超えた、顔の見える関係を日頃からつくっておくことが必要です」(伊豆原さん)
具体的な事例としては、2020年、「中部防災推進ネットワーク」を立ち上げた。現在、中部圏の業界団体、行政組織、内閣府など約40の組織が参画。隔月での勉強会や毎月のメルマガ発行などを通じて、日頃から情報や課題を共有するなど、顔の見える関係をつくり、有事の際は「つながれる」よう備えているという。
このほか同協会では、震災後の生活再建などに役立てられる、地震保険の普及活動なども展開。コーディネーターの室﨑さんも、お金の仕組みによる人と人をつなぐ大切さに触れた。
「お金をつなぐ仕組みには、行政や公的機関からの支援金です。その対極にあるのが貯蓄金。そして、いざという時の保険金。それから、義援金があります。 これらの4つがあわさってこそ、震災後の復興、復旧への大きな役割を果たす大事なものだと思います」(室﨑さん)
シンポジウムの最後、室﨑さんは「それぞれの持てる力を発揮してつながる」とも表現したが、まずはあらためて防災意識を持つことから始めてはどうだろうか。
なお、地震保険は、住宅の損害保険である火災保険にセットして契約する保険。火災保険だけでは、地震を原因とした建物の倒壊、火災、津波、噴火の被害は補償されない。地震保険は、政府と損保業界で共同運営している。保険料には、保険会社の利潤は含まれていない。