「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
平均年収が高い上場企業は?
2022年11月21日発売の「週刊ダイヤモンド」(2022年11月26日号)の特集は、「高収益 高収入 業界企業地図」。勝ち組企業のビジネスモデルを分析、いかにして好待遇を実現しているのか明らかにしている。
給与が他の主要国より低いとされる日本だが、平均年収が1000万円を超えるような高年収企業も存在する。平均年収が高い上場企業ランキング上位に並ぶのは、以下の各社だ。
1 M&Aキャピタルパートナーズ 2688万円/2 キーエンス 2183万円/3 ヒューリック 1803万円/4 伊藤忠商事 1580万円/5 三菱商事 1559万円/6 三井物産 1549万円/7 丸紅 1469万円/8 レーザーテック 1448万円/9 ストライク 1433万円/10 住友商事 1406万円/11 霞ヶ関キャピタル 1312万円/12 ジャストシステム 1309万円/13 東京エレクトロン 1285万円/14 三井不動産 1274万円/15 三菱地所 1265万円
M&A仲介業界のM&Aキャピタルパートナーズが、1位になった。中小企業の事業継承をまとめ、売上高を伸ばしている。同じ業界の日本M&Aセンターとストライクに1000万円以上の差をつけているのは、案件の紹介元への経費が少ないからだという。
多くの案件を自前で獲得しているので、紹介のコストを人件費に回せるのだ。人件費全体の約8割を賞与が占め、成果に応じて超高給を実現できるが、その代わり、M&A未経験者の固定給は420万円とかなり低く設定されている。
超実力主義の会社だが、先行する日本M&Aセンターに対抗し、着手金を無料にするという仕組みで、中小企業経営者の抵抗感をなくし、営業スタッフのモチベーションアップにつなげているそうだ。
2位のキーエンスはFA(ファクトリーオートメーション)の企業。2022年3月期まで8期連続で営業利益率50%以上を記録。好待遇を支えるのが高い生産性で、「1人当たり売上高」は、8427万円と、10期前の5828万円から急増している。
従業員が3420人から8961人と激増したのに、生産性が向上している秘密は、徹底的に「仕組み化」した営業にある、と指摘している。
顧客ニーズに沿った商品を開発し、外部委託で生産し、営業スタッフが顧客へソリューション事業を行うというサイクルができあがっている。一方で、営業の仕事が定型化しているので転職する若手も少なくなく、人材確保は一筋縄ではいかないとも。
このほか、半導体製造装置のレーザーテックや、総合商社とひけを取らない財閥系不動産の給与を分析している。
超一等地に土地を保有しているため収益が安定している三井不動産、三菱地所は、基本的に年功序列で働き方も「ホワイト」ながら、40代で年収2000万円が視野に入るというから、就職難易度が高いのもうなずける。
◆独自に予想した「5年後の年収」ランキング
興味深いのは、同誌が独自に予想した「5年後の年収」ランキングだ。
営業利益などから重回帰分析による予測モデルを基に算出した。1位ヒューリック、2位武田薬品工業、3位中外製薬......など、建築・不動産や製薬大手が上位に並んだ。
このほか、年収で厳選した強い株ランキングも掲載している。
売上高や営業利益で企業を見比べるのが常だが、年収というモノサシも有効であることがわかる。
役職定年で「モチベーション低下」する50代
「週刊東洋経済」(2022年11月26日号)の特集は、「1億『総孤独』社会」。役職定年の50代を襲う孤独や、「女性活躍」の陰に埋もれる中高年女性の貧困など、すべての人に忍び寄る影に光を当てている。
1人で暮らす人の割合が4割に迫り、孤独死の4割は現役世代というデータを見ると、気が重くなるだろう。
人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、50代の悩みについてレポートしている。定年後研究所の調査によると、役職定年によって、「モチベーション低下」「諦め」「寂しい・孤独」「喪失感」を感じる人が少なくない。
役職定年後は、グループ会社や取引先に転籍を余儀なくされるケースも多いが、転籍先企業も高齢社員を抱え、受け入れポストも少なくなっているという。
65歳ないし70歳まで働き続けるならば10~15年間通用するスキルを身に付ける必要がある、と指摘している。
ノンフィクションライターの飯島裕子氏は、中高年女性の貧困について報告している。コロナ禍による影響を最も受けたのは非正規で働く女性で、シングルマザーには現金給付も行われた。
一方、子どもがいない単身女性は支援の対象外で、その実態は見えないという。全世帯で最も貧困率が高いのは65歳以上の高齢単身女性だ。20~64歳で4人に1人が貧困、65歳以上では2人に1人が貧困という状態である。
就職氷河期世代が老後を迎える頃、未婚または配偶者と離別した女性の約半数(290万人)が生活保障レベル以下の生活を余儀なくされるデータがあると聞くと、その深刻さがわかる。
◆コロナ禍でさらに進む「友達離れ」
孤独なのは中高年だけではない。
相談相手は「お母さん」という若者が増えている、という記事に驚いた。若い「Z世代」は、同僚や友達への過度な気遣いによって疲弊し、相談相手は「お母さん」という人が多いそうだ。コロナ禍でさらに「友達離れ」が進んでいる。
一方で、子どもの代わりに親の面倒を見る家族代行業への相談の約6割が「親の面倒を見たくない」というものだという。相談者は40代、その親は70代というケースが最も多く、一人っ子の単身男性が目立つそうだ。
厳しいしつけや育児放棄、逆に干渉され過ぎたという理由で、親と距離を置きたいという。火葬場に家族が来ないこともあり、死後も「孤独」ということでは、なんともやりきれない。
内閣官房孤独・孤立対策担当室の有識者会議メンバーの石田光規・早稲田大学文化構想学部教授(社会学)は、「働き盛り世代にまで孤独感が広がる現実をどう受け止めたらいいか。真剣に考えるべき時だ」と警鐘を鳴らしている。
半導体に回復の動き
「週刊エコノミスト」(2022年11月29日号)の特集は、「半導体 反転の号砲」。金利の先高観が一服する中、「長期的な成長シナリオは不変」として、半導体株を買い戻す動きが出始めたという。
「2023年1~3月期を底に回復へ DX、GX投資がけん引」と予想しているのは、OMDIAシニアコンサルティングディレクターの南川明氏だ。回復の要因を2つ挙げている。
1つ目は、ウクライナ紛争で止まっている各国のカーボンゼロ政策の投資が回復することだ。ウクライナ紛争が収束すると、500兆円規模の計画されていた投資が再開すると見ている。
2つ目はメタバース(インターネット上の仮想空間)実現に向けたデータセンター投資だ。米マイクロソフトやグーグルなどが25年からのサービス開始を計画しており、2年後半から徐々に投資をしないと間に合わないという。
「半導体株は市況や個別企業の業績を確認しながら戻りを試す展開を想定している」と予想している。
日本の半導体が復活する可能性はあるのか? 服部コンサルティング・インターナショナル代表の服部毅氏は、経済産業省が描く3つのシナリオに言及している。
1つ目は米国勢との「共同開発」。岸田バイデン両首脳の肝いりで本命視されているが、2つ目は「欧州勢との技術提携」だ。ベルギーの先端半導体技術研究機関であるimec(アイメック)と技術提携し、さらには研究開発拠点を日本のつくばに誘致するというもの。
3つ目は、「TSMC最先端工場誘致」だ。熊本に10年古い28ナノメートルプロセスを用いた工場誘致に成功したが、最先端工場の建設には同意していない。すべては「カネ次第」だという。(渡辺淳悦)