日本人の人権意識はどう変わったか?...今、関心高いのは「インターネット上の誹謗中傷」(鷲尾香一)

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   内閣府は2022年11月15日、「人権擁護に関する世論調査」を発表した。今回は全国の18歳以上の1556人の回答をまとめた結果だが、果たして、日本人は人権に対してどのような意識を持っているのだろうか。

  • 内閣府「人権擁護に関する世論調査」に注目した(写真はイメージ)
    内閣府「人権擁護に関する世論調査」に注目した(写真はイメージ)
  • 内閣府「人権擁護に関する世論調査」に注目した(写真はイメージ)

「日本で人権が侵害されるようなこと」...少なくなってきた21.9%、多くなってきた38.9%

   まず、「ここ5~6年の間に日本で人権が侵害されるようなこと」については、「少なくなってきた」が21.9%、「多くなってきた」が38.9%となった。

   「少なくなってきた」は、2007年、2012年、2017年の調査に続き、4回連続で増加している。ただ、半面では2017年調査では29.4%だった「多くなってきた」が10ポイント近い増加となっており、受け止め方が相違する傾向が見られる。

   男女では、男性698人のうち、「少なくなってきた」は23.2%、「多くなってきた」は37.3%だったのに対して、女性858人では、「少なくなってきた」は20.7%、「多くなってきた」は40.3%と女性の方が人権侵害に対して、身近に感じている傾向がありそうだ。

   それは、「自分の人権が侵害されたと思ったことがあるか」との質問の回答にも表れている。

   全体では「ある」が27.8%、「ない」が71.0%だった。だが、男女別では、男性が「ある」25.1%、「ない」73.8%だったのに対して、女性では「ある」30.0%、「ない」68.8%と「ある」が男性を上回っている。

   これは、「人権が侵害されたと思ったのは、どのような場合か」という質問の回答にも表れている。全体では、以下のようなケースが上位となっている。

・あらぬ噂、他人からの悪口、かげ口=54.4%
・職場で嫌がらせ=30.1%
・名誉・信用のき損、侮辱=22.9%
・プライバシーの侵害=18.8%
・学校でのいじめ=18.1%
・使用者による時間外労働の強制などの不当な待遇=17.1%
・セクシュアル・ハラスメント=16.0%
・人種・信条・性別・社会的身分などによる差別待遇=15.3%

   このうち、「あらぬ噂、他人からの悪口、かげ口」と「職場で嫌がらせ」は男女に大きな差はない。ところが、男性は「名誉・信用のき損、侮辱」、「使用者による時間外労働の強制などの不当な待遇」が女性を上回っているのに対して、女性は「プライバシーの侵害」、「学校でのいじめ」、「セクシュアル・ハラスメント」、「人種・信条・性別・社会的身分などによる差別待遇」で男性を上回っている。女性の方が、さまざまな局面で人権が侵害されるケース、もしくはされたと受け止めるケースが多いようだ。

関心ある項目...「インターネット上の誹謗中傷」53.0%、「障害者」50.8%、「子ども」43.1%、「女性」42.5%

   では、日本人はどのような人権問題に対して、関心があるかと言えば、最も多いのは、「インターネット上の誹謗中傷などの人権侵害」で53.0%を占めている。

   次いで、「障害者」50.8%、「子ども」43.1%、「女性」42.5%、「風評に基づく偏見や差別など災害に伴う人権侵害」32.6%、「高齢者」30.1%が上位となっている。各項目を詳しく見ていこう。

   「インターネットに関して、人権問題だと思ったこと」を尋ねたところ、「他人を誹謗中傷する情報が掲載されること」が67.7%と圧倒的に多く、次いで、「他人に差別をしようとする気持ちを起こさせたり、それを助長するような情報が掲載されること」が42.8%、「プライバシーに関する情報が掲載されること」が42.5%だった。

   「障害者に関して人権問題だと思ったこと」を尋ねると、「職場、学校などで嫌がらせやいじめを受けること」が43.3%、「じろじろ見られたり、避けられたりすること」が40.7%、「差別的な言葉を言われること」が38.9%、「就職・職場で不利な扱いを受けること」が 38.2%と続いた。

   「子どもに関して人権問題だと思ったこと」では、「いじめを受けること」が65.2%と圧倒的に多く、次いで、「いじめ、体罰や虐待について、周りの人が、気がついているのに何もしないこと」が56.0%、「虐待を受けること」が53.9%と多かった。

   「女性に関して人権問題だと思ったこと」では、「『家事は女性』など男女の固定的な役割分担意識に基づく差別的取扱いを受けること」が47.0%、「セクシュアル・ハラスメント」が42.0%、「女性が管理職になりにくいなど職場において差別待遇を受けること」が39.0%、「配偶者やパートナーからの暴力などのドメスティック・バイオレンス」が31.6%などだった。

   「高齢者に関して人権問題だと思ったこと」では、「悪徳商法、特殊詐欺の被害が多いこと」が44.7%、「病院での看護や介護施設において劣悪な処遇や虐待を受けること」が33.6%、「高齢者が邪魔者扱いされること」が31.7%などだった。

   俯瞰すると、日本人が人権問題だと取られていることは、身近に起きていることが中心となっており、さらに、「いじめ、体罰、虐待」や「セクハラ、ドメスティック・バイオレンス」、「悪徳商法、特殊詐欺」といった明らかな犯罪行為の被害に対して、人権意識を持つケースが多いようだ。

   そして、残念なことに、たとえば「LGBTQなどの性的マイノリティ」や「部落差別・同和問題」、「ハンセン病患者・元患者やその家族」、「アイヌの人々」のように、基本的人権が侵されていると考えられるマイノリティについては関心が低くなっている。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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