来年賃上げしても、再来年には元の木阿弥?
同じく「生産性の向上」の重要性を強調するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。木内氏は、リポート「消費者物価4%が視野に:賃金と物価の好循環は起こらない(10月消費者物価)」(11月18日付)の中で、潜在成長率と名目賃金上昇率(所定内賃金)の推移のグラフを示した【図表1参照】。
木内氏によると、消費者物価指数(コア)の上昇率は、年末に向けてさらに高まり、12月の上昇率はプラス4.0%にまで達するとみる。ただし、2023年に入ると、景気減速、商品市況の下落、円安の一巡の影響から、上昇率が低下傾向をたどり、来年8月には1%台と推測する。それでも、暦年では2022年がプラス3.2%、2022年がプラス2.1%というのが、現時点での予測値だそうだ。
問題は、この物価上昇率に賃金が追いつけるかどうかだ。そこで、【図表1】が登場する。
グラフで一目瞭然だが、過去を振り返ってみても、「名目賃金上昇率が潜在成長率の水準を長きにわたって大きく上回ったことはない。潜在成長率が名目賃金上昇率の上限となってきた」と木内氏。つまり、潜在成長率の3大要素の1つである「生産性」を上げなければ、賃上げは難しいわけだ。
「労働組合の中央組織である連合は、来年の春闘での賃上げ目標を5%程度に引き上げた。過去7年間は目標を4%程度としてきたが、これを1%ポイント引き上げた。また、ベースアップの目標についても、従来の2%程度を、来年は同じく1%ポイント引き上げ3%程度とした。目標引き上げの追い風となっているのは、今年の消費者物価上昇率の上振れだ」
「これを踏まえると、来年の春闘で、ベアは今年の0%台半ばからプラス1%程度へ、定期昇給分を含む賃金上昇率は今年のプラス2.1%からプラス3%弱へ高まることが見込まれる。ただし、それでも2%の物価目標の達成を目指す日本銀行が期待する賃金上昇率には遠い」
「黒田東彦総裁は、2%の物価目標と整合的な賃金上昇率は、ベアでプラス3%程度であることを記者会見で示唆している。プラス1%の労働生産性上昇率を前提とすれば、それに等しくなる実質賃金上昇率はプラス1%であり、2%の物価上昇率と3%の名目賃金上昇率でそれが実現することになる」
ところが、日本銀行が推計した1人当たりの労働生産性成長率は現在、0%程度なのだ。経済学で言うと、労働分配率が変わらない限り、ほぼ実質賃金上昇率=労働生産性上昇率だから、労働生産性上昇率が高まるといった前向きの構造変化が起こらない限り、高い実質賃金上昇率が持続することはない、と考えられるという。
木内氏はこう説明する。
「しかも、来年の賃上げ率が上振れるのは1年限りとなりやすい。上記の筆者(=木内氏)予測のように、2022年度平均がプラス3.2%の後、23年度平均がプラス2.1%へと低下するのであれば、その影響を受ける24年の賃上げ率は再び下振れることになるだろう」
元の木阿弥というわけだ。(福田和郎)