日本で先行するZホールディングス
日本で積極的にエンベデッド・ファイナンスに取り組んでいるのが、ヤフーとLINEの経営統合によって誕生した新たなZホールディングスである。
金融事業を第3の収益の柱にしようとしている。「シナリオ金融」という構想を掲げている。消費者の生活シーンで起こるさまざまな行動をトリガーとして、金融商品を提案しようというもので、エンベデッド・ファイナンスという言葉は使っていないが、意図していることはほぼ同じだとみられる。
すでに、三井住友海上火災保険を引受保険会社として、「ヤフオク!」で落札した家電製品またはスマートフォンを対象に、300円からの保険料で修理サービスを受けられる保険を提供している。また、「PayPayモール」「ヤフー!ショッピング」で購入した家電製品に対しても、「あんしん修理保険」の提供を開始している。一方、メルカリも、後払いサービス機能や少額融資サービスを導入している。
Zホールディングス、メルカリ共に自社グループ内でライセンスホルダーを有しているため、外部の銀行と提携することなく、エンベデッド・ファイナンスを立ち上げることに成功した、と評価している。
一方、国内でBaaSの提供に積極的なのが、インターネット専業銀行である。なかでも住信SBI銀行はJAL、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、ヤマダホールディングスなどと協業し、エンベデッド・ファイナンスを実現している。
城田さんは、日本版スーパーアプリの実現には、Zホールディングスが有利な位置にいることは間違いないが、NTTドコモなど通信キャリアもすでに着手している、と指摘している。
たとえば、d払いアプリでタクシーを呼び、運賃はd払いで支払えるようにしている。現在のところ、決済以外の金融サービスを提供していないが、三菱UFJ銀行との協業によって今後、新たな展開があると見ている。
楽天はグループ内に金融企業を抱え、ポイントを軸に相互送客を実現してきた。スーパーアプリ化へ進もうとしているが、できることはまだ限定的だという。
日本で乱立するポイント経済圏が集約され、それがそのままスーパーアプリへと戦いを移す可能性が高い、と城田さんは予想している。(渡辺淳悦)
「エンベデッド・ファイナンスの衝撃」
城田真琴著
東洋経済新報社
1980円(税込)