物価上昇が収まらないなか、従業員の生活を支援する特別手当として「インフレ手当」を支給する動きが企業に広がっている。
そんななか、帝国データバンクが2022年11月17日、「特別企画:インフレ手当に関する企業の実態アンケート」を発表した。
企業の6.6%が支給を決めており、予定・検討中も含めると4社に1社以上が前向きに取り組んでいることがわかった。御社では支給されますか?
月額一律3万円のオキサイド、最大15万円一時金のサイボウズなど
各メディアの報道や自社発表などをまとめると、多くの企業が「インフレ手当」支給に踏み切っているようだ。
IT大手のサイボウズ(東京都中央区)は、国内外で働く約1000人を対象に、7月に最大15万円の特別手当を支給した。同社の中根弓佳人事本部長は「適度な形で物価が上がるというのは好ましいことだと思いますし、企業がしっかり応えていくっていうのは大切なことかなと思っています」と語った(テレビ朝日)。
また、家電量販店のノジマ(横浜市)では、7月から従業員(新入社員含む正社員・契約社員)約3000人を対象に、毎月1万円の「応援手当」の支給を始めた。その理由について、発表資料には次のようにあった。
「総務省が発表した5月の消費者物価指数は9か月連続で上昇しております。このような状況下であっても従業員が安心して仕事に向き合い、お客様に満足していただけるパフォーマンスを発揮できる環境を整えるため、今回の手当支給に至りました」
ビーフン製造最大手のケンミン食品(神戸市)は7月、社員に「インフレ手当」を支給した。勤続1年以上は5万円、1年未満は1万~3万円。正社員、契約社員の区別はせず、同じ金額。高村祐輝社長がスーパーで食料品の値上がりを実感、「何か手を打たなければいけない」と考えたのがきっかけ(朝日新聞)。
光学系部品を手掛けるオキサイド(山梨県北杜市)は、役員を除く全従業員約240人を対象に、一律月額3万円の賃上げ(インフレ手当)を12月給与から実施する。正社員に加え、パート社員も対象。古川保典社長の「従業員が安心して業務に取り組めるように対応する必要がある」という発案(産経新聞)。
中華料理「大阪王将」を展開するイートアンドホールディングス(大阪市)は、社員ら約480人に対し、10月から月額8000円の「インフレ手当」を給与に上乗せする。
「例年、社員の給与の安定や長期的なキャリア形成の観点から、評価に応じた昇給を実施しておりますが、昇給とは別に特別手当を支給することで、従業員の安定した生活基盤の確保とモチベーションの更なる向上と維持に取り組み、お客様へ提供する商品・サービスの品質向上へとつなげます」(プレスリリース)
「東北銀行」(岩手県盛岡市)は、来年(2023年)1月に臨時手当(インフレ手当)3万円を支給する。行員のほかグループ会社の契約職員、パートなどすべての従業員約800人が対象。佐藤健志頭取は「従業員の生活の負担を少しでも軽減し、業務に前向きに取り組んでもらいたい」と語った(NHK)。
こういった案配だ。
「一時金」が多い理由...「月額にすると、下げる時のインパクト大きい」
さて、帝国データバンクの調査によると、物価高騰をきっかけに、従業員に特別手当(インフレ手当)の支給を実施または検討しているか聞くと、「支給した」企業は6.6%となった。
また「支給を予定している」は5.7%、「支給していないが、検討中」は14.1%となり、合わせると4社に1社(26.4%)がインフレ手当に取り組んでいる。一方、「支給する予定はない」は63.7%となった【図表1参照】。
支給方法と支給額(予定・検討中の企業を含む、複数回答)を聞くと、「一時金」と回答した企業が66.6%、「月額手当」が36.2%となった。「一時金」の形が多い理由について、企業からは「月額手当にすると、手当を下げねばならない時にインパクトが大きくなる。賞与に追加して今をしのいでほしい」(鉄鋼卸売)との声が聞かれた【図表2参照】。
「一時金」の平均支給額は約5万3700円で、「1万円~3万円未満」(27.9%)が最も多く、「3万円~5万円未満」「5万円~10万円未満」(ともに30.3%)と続く。1万円以上を支給する企業は12.6%にのぼった【再び図表2参照】。
一方、「月額手当」の平均支給額は約6500円で、「3000円未満」(26.9%)が最も多く、「3000円~5000円未満」「5000円~1万円未満」(ともに21.9%)と続く。10万円以上を支給する企業は16.4%にのぼった【再び図表2参照】。
月額手当を選択した理由について、企業からは「燃料価格が高止まりするなかで、通勤手当以外にガソリン高騰による補填分として支給」(機械修理)といった声が一部で聞かれた。
支給する企業「社員のモチベーションアップにつなげたい」
インフレ手当を支給した企業からは、こんな声が聞かれた。
「夏季賞与、決算賞与、冬季賞与で支給実施。社員からは感謝の声が多かった」(貸事務所)
「会社の業績が上がるなかで、利益を還元することも経営者の責任と思う。毎月支給する形で5000円程度」(化学製品卸売)
「今期は思いのほか業績が良かったため、決算賞与を初めて出した。物価高騰が金額算出の根拠にもなった。1人1万円×12か月で12万円、全員一律」(印刷)
「物価の高騰が続き、社員やパート社員の生活が困窮しないように一時金を全従業員に支給」(事業サービス)
などと、記録的な値上げラッシュが続くなか、実質賃金の減少を補うために支給するところが多かった。また、
「物価高騰のなかで少しでも社員のモチベーションアップにつながればよい」(工業用薬品卸売)
「食費・光熱費などの負担増は現実問題であり、人材流出の防止策としても実施」(建物売買)
といった、従業員のモチベーションアップや人材定着の狙いもうかがえる。
支給しない企業「業績が悪化しており、そちらの対策が優先」
一方、インフレ手当を支給しない企業からは、こんな声が聞かれた。
「会社自体も電気代などのコストが上昇しており、それらすべてを製品に価格転嫁できていないなかで、社員に対して手当を出すことは難しい」(金属プレス製品製造)
「今年の昇給額を例年より高めに設定しているので、特別手当ては考えていない」(肉製品製造)
「一時金なら賞与、月額なら基本給に含めたほうが効果的と感じる。一過性の手当の場合は手当がなくなる時期の影響が心配」(ソフト受託開発)
「インフレで会社の営業収支が悪化しており、まずはそちらの対策が優先と考えている」(建築工事)
と、仕入れコストが上昇傾向にあるなかで自社業績が悪化しているため、従業員に金銭的な補填をする余裕がないという苦渋の声が多かった。
帝国データバンクではこうコメントしている。
「手当支給の目的として、物価高騰で実質賃金が低下する従業員の生活を下支えする、モチベーションアップ、人材の定着があげられる。ただし本来、物価の上昇分は特別手当でなくベースアップとして賃金に反映するのが望ましいであろう。
コスト上昇分をすべて販売価格に転嫁できず収益が低迷していることが、ベースアップや手当支給に踏み切れない1つの要因となっている。このため政府は、企業が価格転嫁しやすい環境の整備や賃上げを促す支援策の実行などが求められる」
調査は2022年11月11日~15日、インターネットでアンケートを行い、1248社社から有効回答を得た。そのうち大企業は168社(13.5%)、中小企業は1080社(86.5%)だった。(福田和郎)