物価上昇で「将来不安」から消費を控える、打開策はやっぱり...?
ところで今回、GDPがマイナス成長に転じた背景には、個人消費が伸びないことがあげられる。「実は所得が伸びているのに、なぜ消費が伸びないのか」を追求したのが第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「弱い消費支出の『からくり』~本当は所得が増加している~」(11月15日付)のなかで、総務省の「家計調査」を元にした「消費性向」の推移を表わしたグラフを示した【図表2参照】。「消費性向」とは、所得のうちどれだけを消費にあてるかを示す割合だ。
【図表2】を見ると、消費性向が2020~2022年にかけて、それ以前よりレベルダウンしていることがわかる。直近では、2019年の平均より4.6%ポイント下がったままだ。コロナ禍で感染への恐怖感が根強く残り、お金を使わない傾向がしみ込んでしまったのか。
熊野氏はこう分析する。
「筆者(=熊野氏)は、物価上昇が将来に備えるように家計心理を向かわせたと考える。過去のインフレ期にも、家計貯蓄率が上がることはあった。現在の生活コストではなく、将来の生活コストが増えることをより大きく恐れて家計は貯蓄を増やす。
食料品やエネルギーの値上がりは、消費の前倒しを促さないことは明らかだ。逆に、値上がりを嫌気して買い控えが起こる。そして、家計は、将来はもっと値上がりすると困ると考えて、現在の消費を抑制する代わりに資金を積み立てている」
しかし、消費が伸びなければ景気回復は遠のく。どうすればよいのか。「パスワードは賃上げ」だとして、熊野氏はこう訴えた。
「将来支出が増えると困るから、現在貯蓄を増やすという関係は、家計の時間選好が変わったことを意味する。現在志向から将来志向へのシフトである。そう考えると、将来不安を減らしてやると、現在消費は増えると推論することができる」
「将来所得が右肩上がりで増えていくような期待感が生み出せれば、将来不安が緩和されて、家計の消費性向も変わっていくだろう。一時的な減税、給付金では、そうした長い先までの将来不安を解消できない」
「将来の所得不安を解消するには、ベースアップ率を上げることが打開策のひとつになる。来年以降の賃金が底上げされると、家計は見方を変える。従来は、0.2~0.5%に過ぎなかったベースアップ率が1%近くになれば、ある程度は将来所得の見通しが改善するとみる」
大幅なベースアップへの期待を込めた。(福田和郎)